「愛とセックスは切り離すべきものなのか?」女性の性にまつわる4つの嘘とは
こんにちは。リレーションシップコンサルタントの此花わかです。
「性と生殖に関する健康と権利」の分野で先進国に大きく遅れをとっている日本。とはいえ、セルフプレジャーなど女性の性に対するタブーがどんどん解体されてきているように思います。
今回は、包括的性教育が欠如したこの国にまだ残る、女性の性にまつわる4つの嘘を紐解いていきましょう。
《嘘1》処女膜が処女の目印
処女膜が処女の印という説はまったくの嘘で、処女膜から女性の性遍歴を知ることはできないことをご存知でしょうか?
処女膜は膣の開口部を覆っている膜で、実際の形や大きさは人によって異なりますが、通常、処女膜は膣の開口部を完全にカバーしていません。もし処女膜が膣の開口部を覆っているのならば、月経やその他の分泌物が膣から出ることができませんよね?
稀に処女膜が膣の入り口全体を覆っている場合がありますが、これは「処女膜閉鎖」と呼ばれ、手術で穴を開け、膣分泌物が体外に出るようにしなければいけない疾患です。
処女膜は性交経験の有無に関わらず、激しい性交や運動で裂傷することがあります。しかし通常、性交時には処女膜は伸縮するため、裂傷や出血することは少ないと考えられます。つまり必ずしも初めての性交によって処女膜の裂傷や出血が起こるわけではないのです。
『The Wonder Down Under』の著者であるニーナ・ドルヴィック・ブロックマンとエレン・ストッケ・ダールがTEDトークで説明しているように、この膜は髪飾りのシュシュのようなもので、伸縮性と柔軟性に富んでいます。たとえ破れても、出血が続くとは限りませんし、処女膜の形は無数にあるので、膜の「くぼみ」が小さな裂け目によるものか、最初からあったものかを見分けるのは非常に難しいでしょう。(※1)
「処女膜がないと処女じゃない」という言説は女性の貞節に価値を見出す「処女信仰」から社会が作ってきたものであり、自分らしい性のあり方を否定する”セックス・ネガティブ”な概念です。
《嘘2》生理中は妊娠しない
ホルモンの関係で女性は生理中に性欲が高くなるときがあります。パートナーと自分さえよければ腟内性交をしても構いません。匂いを抑えるデリケートゾーンのソープやローションもあるのでそういったアイテムを使い、パートナーに生理中だと断っておくのもよいでしょう。
また、生理中にセックスしても妊娠しない説がありますが、それは正解ではありません。妊娠の可能性は低いですが、妊娠の可能性はゼロではありません。生理中のセックスで妊娠する可能性は、月経周期の長さによって大きく変わります。
多くの女性の月経周期は約28日間。通常、そのうちの3~5日は生理で占められており、その間に受精していない卵子「卵胞」と子宮内膜が排出されます。新鮮な卵子が作られる排卵期が最も妊娠しやすい時期で、排卵は通常、次の生理が始まる約12〜16日前に起こります。
しかし、なかには生理周期が短い女性もおり、その場合は排卵期も早くなります。精子は体内で最大5日間生きられるので、タイミングが良ければ、精子は女性の体内に長く留まり、生理を乗り切って新鮮な卵子に入り込むことができるのです。
《嘘3》オーガズムは性器で起こる
オーガズムは男性にとって「射精」、女性にとって「クリトリス、膣、子宮や肛門括約筋の収縮」と”性器”で起こるものだとよく言われますが、実際に腟でオーガズムを感じるのは女性のたったの25%で、他の75%の女性はクリトリスからオーガズムを感じるというアメリカの報告があるほど、女性のマジョリティはクリトリスからオーガズムを得られます。しかし、このオーガズムに影響するのはセックスの”背景”によるものが大きいという性科学者もいます。
例えば、アメリカ人のエミリー・ナゴスキ博士は女性のオーガズムは性行為の裏にある”背景”にあるとして、オーガズムは性器ではなく脳内で起こると主張します。この”背景”は当事者が置かれたシチュエーション、相手との信頼関係や性行為をとりまく環境などが含まれるとか。(※2)
アメリカの心理学者であるアンドレア・ブラッドフォード博士とシンディ・メストン博士が2007年に行ったオーガズムの研究では、オーガズム障害を抱える女性に、オーガズムを迎えられると偽った偽薬(プラセボ)を投与したところ、これらの女性のうち、約4割の人がオーガズムを感じたと報告しました。ここには”心理”がオーガズムに大きく影響されていることが分かります。(※3)
さらに、「The Science of Orgasm」を著したアメリカとメキシコの3人の性科学者、ビバリー・ウィップル博士、バリー・コミサルク博士、カルロス・ベイヤー=フローレス博士の研究によると、女性は身体への接触がなくてもイメージだけでオーガズムに達することを発見したのだとか。彼らの実験からは、ある下半身麻痺の女性がオーガズムを得ていることを検証できたのです。(※4)
まとめると、女性のオーガズムは膣内よりもクリトリスの刺激により起こりやすく、また、そのオーガズムには心理、状況や環境などの”背景”が大きな役割を果たすということ。
ですから、性行為だけにフォーカスするのではなく、何が自分を興奮へ導くかという背景を探究することがオーガズムには必要なのです。とはいえ、「オーガズムを得なければいけない」というストレスもオーガズムを抑制する要素となるので、まずは、「いま感じている性的喜びをマックスにする」ことに集中して、オーガズムを意識しないことも大切なのではないでしょうか。
《嘘4》性欲は人間の三大欲求である
性欲は睡眠欲や食欲と並ぶ人間の生理的な三大欲求だとよく言われます。こういった主張はときに「愛と性欲は別だ」「浮気するのは人間の本能だ」という言説に結びつき、セックスを人間の感情から単純に切り離そうとします。
しかし、先述したナゴスキ博士は20年以上の研究から、人間の性的欲求は睡眠欲や食欲よりもはるかに複雑な欲求だと結論づけています。(※2)確かに、睡眠や食事は人間の生存に必要不可欠ですが、人間はセックスをしなくても生きていけますよね? 仮に性欲が食欲や睡眠欲のような生理的欲求だとしたら、日本の夫婦の過半数がセックスレスだと言われる現象は起きていないのではないでしょうか?
とりわけ、性欲にまつわるテストステロンが男性の1/20~1/10ほどしかない女性にとってセックスは非常に複雑なもの。加えて、セックスがもつ意味は人によって異なることから、セックスを単純な性行為として語るには無理があります。
興味深いことに、性科学の研究が進んでいる国ではセックスを性行為ではなく、”親密さ”(Intimacy)に関連付けて考え、親密さを高めるセラピーも行います。親密さには身体的・感情的・知性的親密さの3種類があり、性を含む身体的親密さを深めるためには、ほかの2つも探究する必要があるとか。
そして、身体的親密さには非性的スキンシップと性的スキンシップの2種類があり、両方のスキンシップをバランスよくとらないと身体的親密さを深めることはできないそう。過去記事『「喧嘩しない=仲がよい」とは限らない。カップルが深い関係にならない理由』に詳細を紹介しているのでぜひ参考にしてみてくださいね。
女性の性はとても複雑。女性がセックスを楽しむためにはその背景にある心理、状況や環境、そして、親密さまで配慮をすることをまずは理解した上で、これまで当たり前だとされてきた女性の性規範が本当に正しいものなのかを振り返る時代が来たのではないでしょうか。
【参考】
※1:The virginity fraud – TEDxOslo
※2:Come As You Are: The Surprizing New Science that will transform your sex life」by エミリー・ナゴスキ博士
※3:Placebo Response in the Treatment of Women’s Sexual Dysfunctions: A Review and Commentary – アンドレア・ブラッドフォード博士、シンディ・メストン博士
※4:Exploring the Mind-Body Orgasm – WIRED