【薬剤師の体験談】「50歳からの自分探し」をはじめた女性の話
世間が羨むほどの家庭がありながら、毎日が不安で眠れない女性
上品な身なりをされた50代前半の女性が「眠れない」と、睡眠導入剤の処方箋を持参されました。
「毎日がとても不安なのです。夫はこの春に昇進して、東京に単身赴任になりました。(私は大阪の薬局で勤務しているので患者様も大阪在住です)
「子供も誰もが憧れる大学に進学しましたが、今は離れて暮らしています。世間の方からすれば、贅沢な悩みだと言われてしまいます。でも、毎日が不安で仕方ないのです。」
物腰柔らかで、彼女と話しているだけで、穏やかな気持ちにさせてくれます。きっとあたたかなご家庭を築いてこられたのでしょう。
しかし、このように、世間の方から羨ましいほどの出来事でも、その方にとっては不安の原因となることもあるのです。
家事・育児・介護など、一生懸命、誰かのために何かに取り組んで来られた方ほど、他動的な状況変化を受け入れづらいように思われます。
子供の自立を機に、自分の好きなことを自分の意志で選ぶ
この方のように、子供の自立を機に、自分の人生を振り返り、果たして今後このままで良いのか?と悩む女性が増えています。
平均寿命から計算すれば、今まで生きてきた時間とほぼ同じ時間を、今後過ごすことになります。
「○○さんの奥様」「○○君のお母さん」このような肩書がなくなってしまうと、私は一体誰かしら?と考え込んでしまいがちになってしまうのです。
彼女のお話しを伺っているうちに、「学生時代のようにまたテニスをしてみたい」とおっしゃったので、
・人と比べずマイペースで通えるスクールを探すこと
・ご自分のための可愛いウエアを購入してみてください
とお伝えしました。
大人になってから、精神的な自立をし、暮らしていくためには、自分の好きなことを自分の意志で選び、自分のペースで進め、それらを常に心地よいと感じることが大切です。
閉経を迎える50歳前後の女性のセックスライフとは?
さて、この女性からは性生活のお話は聞いておりませんが、閉経を迎える50歳前後の女性は、「もう子供はできないから思う存分セックスを楽しみたい」という人と、「月経がなくなったら、もうセックスはしたくない」の両極端に意見が分かれるようです。
少し古いデータですが、1997年関東地方在住の30〜69歳までの女性309人にとったアンケート結果によると、50代後半になると性交痛のため、性行為を苦痛である感じる人が31%。またオーガズムを得る割合も減少してきたというデータが出ています。
また、性交痛がひどいため、セックスレスになった方もおられます。
セックスレスになる理由
性交痛はセックスレスの原因のひとつ
性交痛は、更年期などの影響で女性ホルモンの分泌が減少し、膣の部分の潤滑液などが十分に出ないなどの理由で生じます。心理的な要因も加わり原因は多岐にわたります。
我慢して性交を続けることで、傷口から感染し痛みを感じる。心理的な要因から潤滑液不足の現象が起き、痛みが増すなどの悪循環に陥ることがあります。
女性が性行為に対する関心が喪失するのはなぜ?
セックスレスになった原因について、43%の方が「自分の関心の減少」と挙げています。
なぜ、女性は性行為に対する関心が喪失するのでしょうか。先ほどのアンケート結果より以下の4つが挙げられていました。
① 会話の少ない夫婦関係
女性の42〜45%が、配偶者と過ごす時間も会話も少ないと回答しています。また交わす内容は「日常的会話」が最多となっています。会話の味気無さも原因なのかもしれません。
② 男性主体の性関係
性行為を求めるのは男性からがほとんどで、過去1年に性行為があった女性の40%が気乗りしないが、仕方なく受け入れた回答しています。「妻は夫の要求に従うもの」という昔からの慣習が残っているようです。
③ 性的コミュニケーションの不足、および乏しい性知識
更年期世代の女性は性交痛が生じやすくなることを、男性の32%,女性の28%が知らないという結果があります。潤滑液不足なのは、パートナーに対する愛情が足りないと互いに感じているそうです。
④ 日常的な愛情表現の乏しさ
性行為以外の愛情表現がわからない、というのも理由のひとつのようです。
性行為以外の身体的触れ合いについてアンケート調査を行うと、肩もみ・指圧が39〜41%で最も多く,29%の人は触れ合う機会すらないと答えています。
あらためて、いかに日頃の日常会話や触れ合いが大切かということが分かります。
性的コミュニケーションの不足および乏しい性知識とは
個人的に、上記アンケート結果③をさらに掘り下げて考えてみました。
女性は身体的な問題で、パートナーに対して愛情があっても、性行為を受け入れらない場合もあります。
■ ジェンダー格差により仕方なく性行為を受け入れている
ジェンダーについて多くの企業や行政でも取り組んでいます。
しかし未だに男女の収入格差、女性の社会的な立場は低く、性行為・家事・育児すべてにおいて、自分の意思表示ができず、仕方なくパートナーからの行為を受け入れ続けている人もまだ多いことでしょう。
性行為がまるで家事の一部のように義務的になり、その結果、性行為に対して魅力を感じられず、自分の中での関心も低くなっているのでないでしょうか。
また性行為に魅力を感じない理由は、性交痛の他に男女の身体的な違いも考えられます。
■ 女性が受け入れる準備ができていないままの挿入
40~70代男女の調査によると、有配偶者の前戯を含めた性行為にかける時間は約4人に1人が10分程度(男性のみの意見)となっています。
前戯もそこそこに、女性の身体が受け入れる準備もできていないまま、挿入して数分で行為が終わっていることになります。
これでは女性はオルガズムに達することができず、心が置いてけぼりになってしまいます。
※:高齢者のケアと行動科学2020 年 25 巻 参照
お互いに思いやりを持ち、相手を理解しようとする姿勢が大事
男女ともに、体と心は年齢とともに変化し、若い頃とは違ってきます。
しかし、だからといって、「性」から目を背ける必要もないと思います。
若い頃とは違った、今だからできることがあるはずです。
お互いに歳を重ねてきたからこそ、互いに心身を労わり、緩やかで、穏やかな、確認方法があっても良いのではないでしょうか。
また大事なのは、互いに意見を言える関係をこれから共に作っていくことだと思います。
「違っていて当然」だと思える信頼性も必要でしょう。
どんなことでも互いに思いやりを持ち、じっくりと話し合い、相手を理解しようとする姿勢がなければ、これからあと何年続くかわからない残りの人生を共にするのは不安でしか、ありません。
急に変わることは難しいでしょうが、小さなことから「自分らしい相手との関わり方」を行動に移していってみてくださいね。
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薬剤師の体験談シリーズ