【薬剤師の体験談】挿入時の痛みに耐えきれず、拒否してしまい、パートナーが立ち去ってしまった女性の話
~今回の体験談は、セックスの挿入時の痛み(性交痛)に悩む女性の話。原因には、更年期や気持ちなどが。どのような治療や対策があるのでしょうか~
「痛い」思わず叫び、彼の身体をはねのけてしまった彼女
数年前に離婚し子育ても落ち着いた彼女に、久しぶり彼ができました。彼に嫌われないよう、彼の求めにいつでも応じていた彼女。
そしてセックスの度に痛みが生じていても、我慢していました。しかし、ついに痛みに耐えきれず、彼をはねのけてしまったのです。
大量の保湿剤を持ち帰る理由
その彼女が、皮膚科の処方箋を持参し薬局にやって来ました。
いつも大量の保湿剤を持って帰られる彼女。乾燥対策について説明していた時、「この薬はどこに塗っても良いのですか」と質問されたため、「粘膜は皮膚が薄いのでなるべく避けてください。」そう私はお答えしました。
すると彼女は「はー」とため息をつき、急に黙ってしまったのです。そして「大事な部分もダメですか」と尋ねられました。私は年齢から、更年期女性によく見られる膣の乾燥であると察し、エストロゲンの低下に伴い、膣も乾燥すること、生活に支障をきたすようならば婦人科系を受診するようおすすめしました。
男性と女性の間にある性のギャップとは
私は薬剤師でもありますが、日本性科学学会の会員でもあり、性を挟んで男女が良い関係を保つことはとても難しいことだといつも感じています。また性は私たちの営みの根源にありながら、カップルや夫婦間であってもオープンに口にしにくい問題です。
女性が男性の性的欲求に合わせて、気乗りしないセックスがよくあるとも言われます。
なぜ男性と女性の間にギャップが起こるのでしょうか
性交痛は40代~50代の約半数に認められているとデータ※があります。
今回お話しした女性のように、更年期以降、性交痛が生じやすくなり、性行為そのものが単なる苦痛に過ぎなくなることもあります。さらに彼女は久しぶりの行為であったため、緊張や不安や様々な要因も絡み合っていると考えられます。
そして彼女のように、女性の3割が、性交痛の原因や対処方法を知らないと言われています。受診する先は皮膚科なのか、泌尿器科なのか、婦人科なのか、いったいどこに相談したらいいのかわからないのです。
性交痛がおこるのはなぜ?
更年期になると、エストロゲンの低下に伴い膣の分泌量が減少し、コラーゲンの硝子化、エラスチンの崩壊、膣結合組織の増殖、膣内環境の中性化などの変化が生じ、膣の乾燥や感染が起きやすくなります。
その結果、不快感・痒み・性交痛などの膣症状が生じやすくなります。本来膣の表面はふっくらして膣壁に厚みがありますが、エストロゲンの低下に伴い膣壁が徐々に薄くなって膣自体が萎縮し、弾力性を失い膣の分泌物の量も減少し、乾燥してしまうのです。
中国で発表された論文になりますが、平均年齢50.85歳の更年期女性が抱える課題アンケート結果、最も多いのは筋肉/関節の痛み(54.5%)、続いて性的問題(48.7%)、および倦怠感(46.1%)でした。身体の悩みは万国共通かと思われます。
マスメディアの影響で更年期はホットフラッシュの悩みが最も多いと思われがちですが、人に言えない悩みを抱えて、さらにその気持ちが抑うつ症状を招く恐れもあるのです。
主な治療方法
1. エストロゲン欠乏に伴う性交痛の場合
① 保湿剤の塗布
クリームは、膣組織に水分と電解質を届けます。正常な膣のpHは2.8と酸性です。
婦人科で自費購入できます。
膣潤滑剤は性交中の乾燥を軽減しますが、保湿剤より作用時間が短く、水性の潤滑剤の方が適しています。油性の製品を使うと腟が乾きやすくなり、コンドームやペッサリーなどラテックス製の避妊具が破損することもあります。使用前に確認してください。
② 低用量局所的ホルモン療法
・エストロゲンクリーム:エストロゲン含有クリーム
難点➡子宮内膜の増殖・汚れ
・膣リング:エストロゲン含有リング
難点➡装着の違和感。日本では未認可
・膣錠:エストロゲン含有膣錠
いずれも婦人科で相談してください。
2. 心理的な要因
抑うつ・不安な気持ち。痛みに対する恐怖。パートナーからの強引な態度により、性行為に対して不快感を持っている。睡眠障害なども影響しています。
この場合は主に心理的な療法が用いられます。
もし痛みは我慢できないけれども、パートナーとの時間を大切にしたい気持ちがあるようならば、お互い会話を楽しみながら、肌を触れ合うことから始めてみるのをおすすめします。
性行為はコミュニケーションの一つです。また日頃のスキンシップも大切にしてください。
海外の例ですが、医療機関で行う治療方法は女性とパートナーを含めて行われます。
医療従事者が、性交痛についてお話しする時の心得とは
参考までに、医療従事者が患者様と性交痛についてお話させていただく際の心得をご紹介します。
治療に大切なのは「相手を満足させる」「相手を受け入れる」ということが最終目標ではありません。あくまで本人が満たされるということが大事なのです。
・パートナーと性交痛について話題にしましょう。
・セックスが人生における重要な部分であることを話しあい、気恥ずかしい思いや孤独感を感じることを軽減しましょう。
・即座に解決せずに、患者様の心配事について扱うリソースを見つけることを伝えましょう。
・それを受け入れられなければ、薬での治療をする必要がないのではないかと考えましょう。
最後に……
表題には「パートナーが立ち去る」と記載しましたが、その女性のストーリーには続きがあります。
彼女はその後婦人科を受診し、素直に性交痛の悩みがあると相談しました。久しぶりの婦人科受診だったため「念のため内診しましょう」と医師に勧められましたのですが、そこで重大な疾患が見つかったのです。
そのまま彼女は入院し、手術を受けました。術後数か月間、性行為はできません。そしてその間に彼とは自然消滅したそうですが、そのことを術後の処方箋を持参された時に、あっけらかんと彼女は話してくれました。
彼女のように、性交痛は、痛みの場所によっては重要な病気が隠れている恐れがあります。
入り口の痛みは膣炎や外陰炎の可能性が。奥の痛みは、子宮内膜症やクラミジア感染症など臓器の癒着や炎症、また彼女のように卵巣腫瘍の疑いもあります。
性行為を久しくされてない方でも、下着で擦れて出血したり、自転車のサドルが当たると痛みを感じる人も「たかがこれくらい」と思わず、一度婦人科受診をおすすめします。
人に相談しにくい内容だからこそ正しい知識を身につけて欲しいのです。
こんなご時世ですもの、心豊かに日々笑顔ですごしましょう
(※ 2005年 日本更年期医学学会 河端恵美子 更年期女性の性生活の現状と問題点より抜粋)