「みぞおちが痛い」原因は心臓かも?更年期との関係は?

40代半ばから50代にかけて、多くの女性が経験する更年期症状。ほてりや発汗、気分の落ち込みなど、症状は多岐にわたりますが、中には【みぞおちの痛み】に悩まされる人も少なくありません。
「食べ過ぎかな」「ストレスのせい?」と思い込んで我慢しているうちに、実は重大な体のサインを見過ごしてしまうことも。
この記事では、更年期世代の女性に起こりやすい「みぞおちの痛み」に焦点を当て、その原因や更年期との関連性、症状を予防するセルフケアについて、詳しく解説します。
胃痛?胸の痛み?はっきりしない痛みにモヤモヤ
52歳の景子さん(仮名)は、数週間前からみぞおちにじわじわとした痛みを感じるようになりました。
最初は空腹時や食後に軽い違和感がある程度でしたが、最近ではチクチクするような痛みや、押さえるとズンと響くような感覚もあり、気になって仕方がありません。胃の不調かと思いつつも、時折動悸を感じる瞬間もあり、「もしかして心臓の病気?」という不安が頭をよぎります。
それでも、「こんなことで受診は大げさかも」「忙しいし、もう少し様子を見よう」と病院へは足が向かないまま。年齢的な不調なのか、それとも見過ごしてはいけないサインなのか……。はっきりしない痛みに不安を抱えたまま過ごしています。
更年期の【みぞおちの痛み】原因は?
更年期にみぞおちの痛みが起こる主な原因として、大きく分けて「胃の不調」と「心臓の血管の問題」が考えられます。どちらも、女性ホルモンであるエストロゲンの急激な減少が大きく影響しています。
胃の不調
更年期になると卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌が減少することで、自律神経のバランスが乱れやすくなります。
自律神経は、私たちの意思とは関係なく、心臓の動きや血圧、体温、そして胃腸の働きなど、体のあらゆる機能をコントロールしている司令塔のような存在です。そのため、自律神経のバランスが崩れると、胃腸の正常な働きが妨げられ、胃の痛み・胃もたれ・胃酸の逆流などの症状が現れやすくなります。
こうした胃の不調が、みぞおちの痛みとしてあらわれている可能性があります。

心臓の血管
みぞおちや胸の痛みの原因の一つとして、近年注目されているのが「微小血管狭心症(びしょうけっかんきょうしんしょう)」です。これは、心臓の筋肉に酸素や栄養を運ぶ、非常に細い血管(微小血管)が一時的にけいれんしたり、血流が低下したりすることで起こります。
微小血管狭心症は、みぞおちや胸の中央部、左側、背中、あご、腕などに
- 圧迫感、締めつけられる感じ
- ズキズキ・チクチクした痛み
としてあらわれることがあります。
更年期に多い《微小血管狭心症》
従来の狭心症は、心臓を栄養する太い血管(冠動脈)が動脈硬化やけいれんによって狭くなることで起こります。これは比較的、男性に多い傾向があります。
微小血管狭心症は、心臓の筋肉(心筋)へ直接、酸素や栄養を届ける髪の毛ほどの細い血管(微小血管)が、一時的にけいれんして血流が低下し、心筋が酸素不足となることで痛みが発生します。
微小血管狭心症の発作は、体を動かしている時だけでなく、安静時や睡眠中にも起こりやすく、痛みは数分から、長いと数時間も持続するのが特徴です。
この微小血管狭心症が更年期に起こりやすい理由として、エストロゲンの低下が関係していると言われています。
エストロゲンには、血管を広げ、しなやかさを保つという非常に重要な働きがあります。また、血管の内側を覆う細胞(血管内皮細胞)の機能を保護し、動脈硬化の進行を抑える作用も知られています。更年期になりエストロゲンが急激に減少すると、この血管保護作用が弱まるため、微小血管がけいれんしやすくなるのです。
これに加えて、更年期に乱れがちな自律神経の不調も、血管の収縮に影響を及ぼすと考えられています。ストレスや不安感が自律神経のバランスをさらに崩し、微小血管の異常収縮を誘発する可能性も指摘されています。
微小血管狭心症は治る?何科を受診?
微小血管狭心症は、適切な治療によりコントロールが可能です。
痛みが頻繁に起こったり、生活に支障が出る場合は、血管を広げてけいれんをおさえる「カルシウム拮抗薬」などを用いた薬物療法が有効です。多くの場合、治療によって症状は改善し、発作が起こりにくくなります。
また、更年期の症状として自律神経の乱れが顕著な場合には、漢方薬やホルモン補充療法(HRT)が症状の緩和に役立つこともあります。
受診すべき診療科は循環器内科です。
微小血管狭心症は、一般的な心電図や心臓カテーテル検査では異常が見つかりにくいため、心臓の専門家による判断が不可欠です。みぞおちや胸の痛みで内科や消化器科を受診して異常が認められなかった場合や、「もしかして心臓?」と感じる際は、ためらわず循環器内科に相談しましょう。
微小血管狭心症を予防するセルフケア
微小血管狭心症は、日常生活の工夫やセルフケアによって予防や症状の軽減が期待できます。高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病を防ぐことが、微小血管狭心症の発症リスクを減らす上で非常に重要です。以下のポイントを心がけましょう。
禁煙の徹底
喫煙は血管を収縮させ、血流を悪化させる最大のリスク要因です。血管の健康を保つために、禁煙は最初に取り組むべき重要なステップです。
バランスのよい食事
高血圧や脂質異常症を防ぐため、塩分やコレステロールを控えめにしたバランスの良い食事を心がけましょう。特に、大豆食品(豆腐、納豆など)に含まれるイソフラボンは、エストロゲンに似た作用があるとされ、更年期症状の緩和や血管の健康維持に役立つことが知られています。
適度な運動
ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、血行を良くし、自律神経のバランスを整えるのに効果的です。大切なのは「無理なく、楽しく続けること」。まずは気軽に散歩から始めてみましょう。
十分な睡眠
睡眠不足は自律神経の乱れを引き起こし、血管の働きにも影響します。リラックスできる環境を整え、質の良い睡眠で心と体をしっかり休ませてあげましょう。
体を冷やさない
冷えは血管の大敵です。体が冷えると血管が収縮し発作の引き金になることがあります。夏場の冷房対策はもちろん、冬場は腹巻きやカイロを活用したり、温かい飲み物を摂ったりと、体を内と外から温める工夫をしましょう。
アルコールは控えめに
過度な飲酒は、血圧の上昇や心臓への負担につながるため、適量を守りましょう。
ストレスをため込みすぎない
更年期は環境の変化や心身の不調など、ストレスを感じやすい時期です。ストレスは自律神経のバランスを崩し、症状を悪化させる原因にもなります。ご自身に合ったリラックス法で、上手にストレスを発散しましょう。
これらのセルフケアは、更年期症状全般の緩和にも繋がります。無理のない範囲で、日々の生活に取り入れてみてください。
みぞおちや胸の痛みは我慢しないで早めに相談
更年期にみぞおちや胸の痛みが生じる原因として、「微小血管狭心症」の可能性があることをお伝えしました。自己判断で「年齢のせい」「更年期だから仕方ない」と我慢してしまうのは危険です。
みぞおちの痛みは、更年期症状の一つとして現れることもあれば、他の病気が原因であることもあります。症状が続く場合は、循環器内科などの医療機関に早めに相談しましょう。
参考
公益財団法人 日本心臓財団 「微小血管狭心症をご存じですか。」(最終アクセス日2025年6月29日)