【薬剤師】岡下真弓
私は疑い深い性格なのか、ヘッドマッサージ中に寝てしまうと、マッサージーを途中でやめてしまわないか気になって、施術中、眠ることはありませんが、いつも整形外科の処方箋を持参される50代後半の女性は、近くのヘッドマッサージ店がお気に入りの様です。
以前もコラムでお伝えしましたが、閉経前になると入眠に苦労する女性が増えてきます。
しかしこの女性の「心臓がドキドキする」って言葉が気になって、色々話しこんじゃったお話を今日はしたいと思います。
更年期になると卵巣の機能が低下し、毎月規則正しく分泌されていたエストロゲンとプロゲステロンの分泌量が低下します。減少しているにも関わらず、ホルモンの司令塔である脳の視床下部は「エストロゲンを分泌させよ!」という指令を出します。
しかし、卵巣にはわずかなエストロゲンしか残っていません。すると視床下部は「もっと出さないか!サボっていないで」とさらにプレッシャーをかけてきます。
私たちの体内でこんなやりとりがなされているため、自律神経のコントロールがうまくいかなくなり、更年期症状と呼ばれる様々な症状が発生します。
この視床下部には、体温調節するメカニズムもあり、あらかじめセットされた温度になるように、体内で産生する熱量(産熱量)と体外に放出する熱量(放熱量)の調節をしています。
ホットフラッシュが起きる明確なメカニズムはまだ不明ですが、最近のデーターで以下のような発表がありました。
脳や心臓など体内の温度を深部体温と言いますが、これらは外が寒かろうが、常に同じ温度を保っています。またこれらは発汗と震えで調節されています。
エストロゲンの分泌が低下すると、視床下部が敏感になり、体がわずかな温度変化にも過剰に反応し、暑さを感じやすくなり、汗をかいて体温を下げたり、変化しないはずの深部体温を下げて放熱反応がおこります。
これらがホットフラッシュがおこる理由ではないかと言われています。1)
ホットフラッシュは顔が紅くなる、拭いても拭いても噴き出して止まらない、何もしていないのに心拍数が上昇する、など、自分で抑えることができない為、恥ずかしい思いをし、外出を控える人がいるほどです。
また、ホットフラッシュを我慢すると不眠になり、翌日疲れが残り、日常生活に支障をきたす方もおられます。さらにひどくなるとうつ状態が続く方もおられます。反対にストレスなどの精神的なことが原因でホットフラッシュがみられる場合もあります。
そこで、少しでも快適な夜を過ごすための方法をいくつかご紹介します。
寝る前の寝室を涼しく、日中は換気をこまめにしましょう。寝汗による不快感を最小限に抑えるために、軽量で通気性のある寝具を使用し、吸湿・発散性のあるパジャマを探しましょう。
ベッドサイドには水分を用意しましょう。また、夜間に汗をかいた時のために着替えを用意しましょう。
ストレスは寝汗や睡眠不足の原因となります。寝る前に瞑想などのご自身に応じたマインドフルネスを行いましょう。
日常生活に高強度の運動を組み込むと、日中のほてりや寝汗の軽減に役立つと考える方もいやっしゃいますが、運動は朝に行うのがベストです。夜遅い時間の運動は避けるようにしましょう。
ライフスタイルの変更だけでは十分な緩和が得られない場合には、ホルモン補充療法や安定剤、睡眠薬などに頼ってみるのも良いでしょう。医師とよく相談しご自身にあった治療法を探してみてください。
たかがホットフラッシュと思うかも知れません。しかし、ホットフラッシュを感じる女性は心疾患のリスクが2倍高いという報告があります。2)
また冒頭の彼女の「ドキドキして眠れない」この言葉が気掛かりです。
専業主婦やお勤め先によっては、能動的に情報を得なければ健康診断を受けられないことが多いのが実情です。またかかりつけ医で採血をしているから大丈夫と思っている方も多くみられます。
しかし採血だけでは見つけられない疾患もあります。肺や心臓など、エコーやレントゲンで初めて見つかることもあります。
と言って情報をプリントアウトして彼女に手渡しました。
参考文献
1)H H Berendsen 1Maturitas. 2000 Oct 31;36(3):155-64. doi: 10.1016/s0378-5122(00)00151-1.
2)GCM Herber-Gast, WJ Brown, GD Mishra BJOG First published: 07 November 2014
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