【薬剤師の体験談】子供が巣立った後、夫婦の時間を楽しめない女性の話
熟年離婚というのは芸能人だけの問題ではありません。今回は熟年離婚にもなりかねない、中高年、更年期世代の夫婦が性行為を楽しめない身体的、心理的因子や解決策について、薬剤師の岡下さんに解説してもらいます。
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みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中で、とくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。
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「熟年離婚って芸能人しかできないよね。私のような、なんの取り柄もない人間は、我慢して暮らしていくしかないわ」
久々に会った女性の友人から、突然このような相談を持ちかけられました。
私は性科学的な観点からみた男女関係についてセミナーなども行っているため、時にはプライベートな相談も受けることがあります。
今回は熟年夫婦の性行為がうまくいかない原因について、身体的、心理的な側面からそれぞれご紹介していきたいと思います。
身体的な因子
女性はエストロゲンの分泌量が低下すると共に潤いが減少します。これはお肌や髪だけでなく、膣の乾燥も招きます。
膣の乾燥は夫婦関係に大きく影響し、熟年離婚の原因にもなりかねません。
このエストロゲン欠乏による以下のような症状は、閉経関連泌尿生殖器症候群(genitourinary syndrome of menopause以下GSMと略します)と言われています。
・外陰・腟の萎縮
・性交時の腟の乾燥および潤滑の低下(痛みを引き起こす)
・泌尿器症状(尿意切迫、排尿困難、再発性尿路感染症など)
GSMは閉経期の女性の約半数にみられると言われています。
しかし冒頭の女性の悩みはGSMだけでなく、夫婦の関係性も影響していました。
心理的な因子
多くの女性が年齢と共に性行為を苦痛に感じているかと言えば、そうでもありません。
60代になっても月に一度はパートナーと性行為を行っている人もいます。このご夫婦は日頃からスキンシップをとっており、疲れていたらマッサージをするなど、体に触れることを頻繁に行っているため、性行為もスムーズに行われています。
性行為に必要なこと
1. 相手にときめき、発情する
2. 相手に対する尊敬、親しみの気持ちを持つ
先ほどのご夫婦からも言える事です。
そもそも、不快に感じる人から、指一本だって触れられたくないですよね。
熟年夫婦によくあることとして、義務感や申し訳なさから性行為に応え続けたことで、知らないうちに相手に対し嫌悪感が生じてしまうという状態です。
さらに子供が巣立ち、残された夫婦間に会話がない、介護で疲れている、パートナーがイライラしているなど、日常生活に潤いがない場合、性的魅力を相手に感じなくなります。
冒頭の知人とは異なる女性ですが、離婚した原因が、パートナーによる暴力であった人もいます。
物理的な力だけでなく言葉の暴力も離婚の原因になります。
パートナーによる暴力の例
・性行為を拒むと「離婚するぞ」「生活費を渡さない」と脅す
・性行為を拒むと、不機嫌になって物を叩く、壊す、暴言を吐く、ケガをさせる
・寝ていてもたたき起こし、無理やり性行為をする
・性欲を発散できないイライラをぶつけてくる、頭ごなしにダメ出しをする、人格を全否定する
・パソコンやゲームなど一人の世界に閉じこもり日頃コミュニケーションがないのに、身体だけ求めてくる
「これらは当たり前でしょう」という感覚が知らず知らずに染み込んでいると、我慢の限界がきてしまいます。
どうかご自身の体はご自身で守ってください。
Bodily Autonomy(からだの自己決定権)とは
Bodily Autonomy(からだの自己決定権)は性教育の現場で最近注目されていますが、私は中高年の女性にこそ伝えたいメッセージです。
・あなたのからだはあなただけもの
・あなたのからだは大事なもの
・あなたのからだの事はあなたが決める
女性の性機能に影響を与える病気の治療
いくらパートナーのことを愛していても、疾患の影響を受け性行為が苦手になってしまう事もあります。
たとえは下記が疾患の例となります。
・排尿障害
・婦人科的がん
・神経障害
・糖尿病などの代謝性疾患
・多嚢胞性卵巣症候群
・甲状腺ホルモン異常
・鬱や不安などの精神障害
上記のような疾患がなくても,「女性の性機能障害」と呼ばれる疾患があります。この場合はインターネットなどで「女性の性機能障害」をかかげている婦人科を探し、受診されることをおすすめします。
「女性の性機能障害」とは
・性行為中の痛み
・性欲の減退
・興奮障害
・オルガズムに達することができない
これらの症状が6カ月以上存在し、著しい苦痛を引き起こしている場合に、診断されます。
最後に、本来、人は性行為を行う相手に対し、性的関心があると言われています。
それは、身体的な快感、好意、愛、ロマンス、親密さを得たいなどの理由があげられます。
女性の場合、感情的な動機の方が多いと言われています。
・情緒的な親密さを経験し、さらに高める
・幸福感を増幅させる
・自分の魅力を確認する
・パートナーを喜ばせたり、慰めたりする
多くのカップルは、互いに更年期を迎える頃には、パートナーとの関係が長くなっており、そもそも相手に性欲を感じない場合が多くなります。
また、性欲は加齢とともに通常は低下します。
ご自身の体調が悪い時は無理する必要はないですが、パートナーが最近疲れているな、イライラしているな、と感じたら、相手を無視するのではなく、さりげなくサポートしてみてはいかがでしょうか?
「私だってサポートして欲しい」という気持ちもわかりますが、相手を慈しむ気持ちは、オトナになったからこそ芽生えてくるものだと思います。
ご自身の魅力を増すためにも、今の、これからの性行為について考えていただければ嬉しいです。