【薬剤師の体験談】癌治療後の身体の変化に戸惑う女性の話

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女性特有の癌治療を終えた女性は手術による傷だけでなく、「女性らしらを失ってしまった」と心が傷ついてしまう方も多いようです。女性特有の癌治療後の女性の感情とセックスへの影響を、薬剤師の岡下さんが解説します。

みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中で、とくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。

目次

卵巣がんの手術後に、苗字が変わっていた女性

処方箋に書かれている苗字が変わっておられました。

大概、結婚されたか、離婚された場合に見受けられます。

薬局では、保険証番号の確認をさせていただき、住所や電話番号にお変わりが無いか伺います。

この女性は1年ほど前に卵巣がんの手術を終え、その後定期的に通院されていました。

「引っ越しもしましたよ。一人暮らしになったので気楽です」

 笑顔で話されるも、その後の会話が続きません。その時はお薬の確認だけ行いました。

ある時、彼女が持参した処方箋に、精神安定剤が記載されていました。

 「やっぱり不安なのですよね、毎日が。ひとりでいることの不安よりも、このまま終わってしまうのかなって。だって女性ですもの。」

ぼそっと寂しげに話す彼女にどのような言葉をかけて良いか見つけられず、薬に関する注意事項をお話しました。

子宮摘出手術後に離婚したママ友の気持ち

彼女が帰られた後、子宮摘出手術を終えて数ヶ月後に離婚した、ママ友との会話を思い出しました。

「旦那が怖いのよ。だって私、子宮とっちゃったのに、迫ってくるのだもん。デリカシーがない。」

「子宮がなくてもセックスできるでしょ?」

「そういう意味じゃなくって……」

その当時の私は、今ほど女性の心と身体の関係について知識を持ち合わせていなかったため、あくまでも医学的な観点で会話をしてしまいました。

ママ友によると、このような内容でした

子宮を失うことで女性としての価値を失ったと感じている。

手術後のセックスは、傷口が裂けやしないか、菌が入って感染しないか不安な気持ちでいっぱいなのに、旦那さんが急に夜に迫ってきて、断ると逆上する。

・今までの夫婦間も、ストレス発散のために自分の体を欲しているとしか思えない。

女性特有の癌治療を終えた女性の感情とセックスへの影響

実はこのような感情は女性特有の癌治療を終えた方に多くみられます。

 ※女性特有の癌:乳がん、子宮体がん、子宮頸がん、卵巣がん、腟がん、外陰がん、子宮肉腫など

 さらに日本に限った問題でなく、海外でも多くの文献データが見られます。

今からこれらの文献データを基にお話ししましょう。

女性らしさを表現する場所への治療

胸や子宮、卵巣など、女性らしさを表現する場所に、メスや放射線など何らかの治療を受けると、ある程度の性的に困難な経験すると報告されています。

また治療後にセックスをしても、性的反応の低下、性的満足度の低下、性機能障害の発生率が高いことがわかっています 

セックスに対するイメージ

セックスに対してポジティブなイメージをもっているか、ネガティブであるかによって大きく異なります。

もともとセックスに対し否定的なネガティブな方は、性的欲求と性的興奮のレベルが低く、手術の影響で性的不安のレベルが高くなってしまい、結果としてセックスを避ける傾向があります。

しかしここで注意してほしいことは、ポジティブな方も、治療方法によっては、エストロゲンの減少に伴い、膣が乾燥し、挿入時に痛みを感じる、傷口がつっぱってしまい、今までのように開放的な気分になれないなど、後天的な心理的不安が伴う場合があります。

パートナーとの親密さ

また結婚している、していないに関わらず、パートナー間における親密さも手術後のセックスに影響すると言われています。

子宮全摘手術後にとった「セックス」に関するアンケート結果

海外だけでなく、日本でも興味深い学会発表があります。

 

手術1年後、セックスを再開した時期について

3ヶ月以内:15.4%
3~6ヵ月:11.5%
6~12ヵ月:11.5%
全くなし:57.7%
無回答:3.8%

セックスの頻度

増えた:3.8%
変わらない:26.9%
減った:53.8%
無回答:15.4%

セックスの頻度が減った理由として最も多かったのが

粘液が不足したと感じるから:46.2%

となっています。

手術前とセックスの満足度の比較

100%:11.5%
80%:11.5%
70%:7.7%
60%:7.7%
50%:7.7%
20%:3.8%
0%.:11.5%
無回答:38.5%

これらのデータより、あくまでも、私の推測に過ぎませんが、摘出手術を受けた方は、女性らしさを失ってしまったと後ろめたさを感じがちです。

また愛情表現の一つであるセックスは、膣の乾燥があると、挿入時にパートナーに不快な思いをさせてしまっているのではないかと、行為中、集中できず、いつしか行為を避けがちになっているのではないでしょうか。

この他にセックスの頻度が落ちた理由として

性交時の痛み:38.5%

膣が狭くなった気がする:38.5%

と続いていますが、これらは自分だけが感じることであり、パートナーにはわからないことです。

手術前、同意書にサインをしてもらう際、パートナーと性的な問題点について、あらかじめ話し合っておくことが大切でしょう。

なかにはパートナーの方が、気を使って相手の体に触れることすら躊躇う方もいらっしゃいます。

手術後初めてセックスをする際、傷口を愛おしく撫でてくださり、涙が出てきたと話すカップルもおられます。

なかなかこのようなカップルは少ないでしょうが、パートナーの理解度が今後の関係性に影響するのではないでしょうか?

私はこの女性と出会ったことで、

自分らしく

女性らしく生きる

あらためて自分に問いかけてみました。

《参照》

Sexual Self Schema as a Moderator of Sexual and Psychological Outcomes for Gynecologic Cancer Survivors.

Kristen M. Carpenter, Barbara L. Andersen, Jeffrey M. Fowler, and G. Larry Maxwell

PMID: 18418707

参照:Weijmar Schultz, van De Wiel, & Bouma, 1991、Andersen, Anderson, & deProsse, 1989a

参照:第62回日本婦人科腫瘍学会にて、子宮頚がんで開腹にて広汎子宮全摘手術の閉経前の方にとったアンケート結果

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この記事を書いた人

岡下真弓のアバター 岡下真弓 【薬剤師】

フリーランス薬剤師
JAAアロマコーディネーター協会認定講師

化粧品メーカー研究開発や薬剤師の知識を生かし、女性の健康と美容をテーマにした講演活動を行っています。 歳を重ねるにつれ、衰えや失われていくものはあります。また更年期世代は仕事で負う責任が大きくなり、後ろ向きな気持ちになりがちです。私は人の美しさとは、その人の生き方次第で変えることが出来ると多くの患者様から教わりました。

「歳を重ねる事をネガティブに捉えずセクシーに健康に楽しみましょう」

このコンテンツは、病気や症状に関する知識を得るためのものであり、特定の治療法や専門家の見解を推奨したり、商品や成分の効果・効能を保証するものではありません。

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