【ホルモン補充療法】やめたらどうなる?やめ時について解説

更年期症状・更年期障害をやわらげる治療法の一つであるホルモン補充療法(HRT)。治療は症状が落ち着くまでの数年にわたるのが一般的です。
そのため、「HRTはいつまで続けられるのかな?」「HRTをやめたら更年期症状が再発するのではないか」と不安になる女性が少なくありません。
そこで、今回はHRTのメリット・デメリット、やめるタイミングなどについてお伝えします。
やめる?続ける?迷う女性の体験談
57歳の佳代子さん(仮名)は、50歳の頃からホルモン補充療法(HRT)を受けてきました。
治療を続けるうちに月経は自然と途絶え、いつ閉経を迎えたのかはっきり分からないまま現在に至っています。おかげで強い更年期症状は改善され、仕事や日常生活に支障はなく過ごせていますが、最近は「治療をそろそろやめるべきだろうか」と考えることが増えました。
続けることで何かリスクがあるのではないかという心配も頭をよぎります。一方で、やめてしまえば、かつてのつらい症状が再び押し寄せるのではないかという不安も強く、気持ちは揺れたままです。
ホルモン補充療法の【メリット・デメリット】を知る
更年期は、女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌が急激に少なくなります。ホルモン補充療法(HRT)は、不足する女性ホルモンを補うことで更年期にみられるさまざまな不調をやわらげる治療法です。まずは、HRTを続けるメリット・デメリットについて知っておきましょう。
メリット
HRTは、エストロゲンの変動をゆるやかにすることで、ホットフラッシュや疲労感・イライラ・不眠といった更年期症状を軽減します。
エストロゲンは、コレステロールの代謝調節や骨の新陳代謝を促し、女性の健康を守るのも働きの一つ。そのため、HRTを続けることで閉経した後に起こりやすい脂質異常症(高脂質症)や骨粗しょう症などを防ぐことが期待できます1。
デメリット
HRTは、乳がんの発症リスクが高まる可能性があるといくつかの調査でいわれてきました。しかし、その後の調査によると、乳がん発症への影響はとても小さいことがわかっています234。
また、HRTの使用期間が5年未満であれば乳がん発症への明らかなリスクはありません。HRTを5年以上使用した場合でも、アルコール摂取や喫煙・肥満などの生活習慣に関連する乳がん発症リスクと同等かそれ以下であると報告されています5。
HRTを続けることに強い不安を感じる必要はありませんが、異常を早期発見するために、定期的な乳がん検診を受けることが大切です。
「閉経」が分からないと「やめ時」も決めづらい
HRTをやめる目安の一つになるのは、更年期症状が落ち着く時です。
ホットフラッシュや疲労感・イライラなどの症状は、一般的には閉経前の5年間と閉経後の5年間をあわせた10年間の更年期にあらわれます。

更年期症状がいつまで続くのかは人によって異なりますが、閉経後5年ほど経過するとエストロゲンが少ない状態に体が慣れ、症状は落ち着くことが多いようです。つまり、HRTをやめるタイミングを決めるには、卵巣の機能が低下して月経が完全になくなる「閉経」が一つの手掛かりになるでしょう。
ただし、HRTをしている間はまれに閉経後でも不正出血がみられるケースもあります。そのため、HRT治療中は、閉経のタイミングやホルモン補充療法のやめ時を自分で判断しづらいかもしれません。

ホルモン補充療法をやめるタイミング
では、HRTをやめるタイミングはいつなのでしょうか。
HRTのガイドラインでは、治療を何歳まで・何年以内にやめるべきという決まりはありません[1]。
女性ホルモンの分泌やホルモン補充療法による効果・リスクは人によって異なります。そのため、現在の体調やいつまでHRTを続けるかどうか、かかりつけの医師と定期的に相談することが大切です。
まだ治療を続けたいと考えている場合は、HRTの治療中に注意すべき症状がないかを確認しましょう。次のような症状がある場合は、HRTの中止を検討した方が良い可能性があります。
・乳房の腫脹やしこりなど
・不正出血
・血栓症
・血圧の変化
これらの症状が出ておらず、HRTの効果を感じているのであれば、治療を続けることができます。閉経を過ぎてしばらく経ち、更年期症状が落ち着いているようであればHRTをやめることを検討してみても良いでしょう。
もうそろそろHRTをやめようかと考えている場合でも、自己判断でHRTを中断するのではなく、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。
更年期症状がぶり返す?上手なやめかたは?
HRTをやめる時、その方法は慎重に選ばなければなりません。HRTのやめかたにはいくつか種類がありますが、代表的なのは急にやめる方法とホルモン補充の量を徐々に減らしていく方法です。
HRTのやめ方についてはいろいろな調査が進められてきましたが、急にやめるとホルモン補充のお薬の効果はなくなり、その後にホットフラッシュなどの更年期症状が再発するリバウンドを起こすケースもあります。
ただし、HRTをやめる時点での女性ホルモンの分泌状態やホルモン補充の量などは大きく個人差があります。もともとホルモン補充の量が少なかった女性などは、HRTを急にやめても更年期症状は再発しないで済むかもしれません。
HRTのやめ方については、かかりつけ医と相談しながら自分の体と受けていた治療に合う方法を選ぶことが大切です。
自分だけのやめ時を見つけてHRTを卒業
ホルモン補充療法(HRT)のやめ時は、閉経を過ぎてエストロゲンの変動が少なくなり、更年期症状が落ち着いてきた時、またはHRTによるメリットよりもデメリットが上回る時であることをお伝えしました。
年齢とともに女性ホルモンの分泌は少しずつ減っていき、更年期症状は落ち着いていくため、いつかはHRTの終わりを迎えます。HRTのやめ時は、おおらかな気持ちで自分にとってベストなタイミングを選びたいものです。
更年期は女性の体が変わり、次のステージへと向かう一つのステップ。体のことを相談できる医師などの専門家を味方につけながら、HRTを晴れやかな気持ちで卒業しましょう。
出典
- 日本女性医学学会•日本産科婦人科学会. ホルモン補充療法ガイドライン 2025年度版. 金原出版. ↩︎
- de Villiers TJ, Hall JE, Pinkerton JV, et al. Revised global consensus statement on menopausal hormone therapy. Climacteric. 2016; 19: 313-315. ↩︎
- “The 2022 Hormone Therapy Position Statement of The North American Menopause Society” Advisory Panel. The 2022 hormone therapy position statement of The North American Menopause Society. Menopause. 2022; 29 :767-794. ↩︎
- BMS, IMS, EMAS, RCOG and AMS Joint Statement on menopausal hormone therapy (MHT) and breast cancer risk in response to EMA Pharmacovigilance Risk Assessment Committee recommendations in May 2020. ↩︎
- Bluming AZ, Tavris C. Hormone replacement therapy: real concerns and false alarms. Cancer J. 2009; 15: 93-104. ↩︎