【薬剤師の体験談】不正性器出血を更年期のせいだと見過ごしていた女性の話
〜 今回の体験談は、不正出血を見過ごしていた女性の話。更年期世代の出血、がん検診……経験者である彼女からのメッセージとは〜
「やっぱりなぁ……」
意外と動揺はなく、一瞬のうちに色んな事が頭を駆け巡った。
一番心配したのは「仕事に復帰できるだろうか?」
収入は夫をあてにすれば問題ない。でも子供のいない私にとって「仕事」が自己実現の場であり、最も重要な要素であるからだ。
そんな風に考えていた彼女の話を、今回はご紹介します。
見て見ぬ振りをしていた不正出血の原因は……?
彼女は長年広告関連の仕事をしています。
50歳を過ぎてもバリバリの現役で、年に数回の海外出張と数え切れないほどの国内出張、徹夜を含む長時間労働、家庭内では主婦業もこなし、多忙な毎日を過ごしていました。
このように多忙な彼女は、会社で定められた健康診断は受けていたものの、オプションであった婦人科検診は何年も受けていませんでした。
その理由は、あのカーテンで仕切られた診察台に乗るのをためらっていたから。
そのため2度の大量出血があったにもかかわらず、「更年期だから」と思い込み、放置してしまっていたのです。
さらに日を追うごとに感じる、いくら睡眠を取っても取れない疲労感についても、「もういい歳だし、多忙な仕事のせいだわ」と、自分に都合よく思い込ませていました。
しかしその後も出血が続き、貧血もひどくなり、倦怠感も増してきたため、周囲の勧めでようやく受診を決意した彼女。
そして告げられた言葉が
「子宮頸がんのステージⅡbです。すぐに手術をしましょう」
その時に彼女は、「やっぱりなぁ」と呟いたのでした。
子宮頸がんの手術を終え、彼女が気づいたこと
彼女は手術を終え、術後補助治療として放射線と抗がん剤の治療を受けた後、仕事に復帰し海外出張にも出かけられるようにもなりました。
しかしせっかく海外出張に行けるまで回復したのに、飛行機に乗った時のリンパ浮腫の痛みがひどく困ってしまい、マッサージや弾性ストッキングを利用することとなったのです。
でも市販のむくみ防止タイツよりも数段強い圧迫タイツを、朝起きてから寝るまで入浴時以外ずっと履くのはかなり億劫なこと。
しかも暑い夏でも履かなければいけません。
分厚いタイツでは、ファッションも楽しめず、サンダルもスカートも履かなくなってしまいました。
そして彼女は最後にこう語ったのです。
「少しでも低いステージのうちに発見できたら、こんな不便な生活をしなくて済んだと思います。
発見の遅れは身体的にも精神的にも経済的にも打撃を与えます。
診察台にのぼるのが恥ずかしいなど思わずに、定期的に検診を受けてほしいと思います。」
更年期前後の出血は、「がん」が原因の可能性も
子宮頸がん予防啓発強化月間の11月、世界各地で様々なイベントが開催され、各地のランドマークでライトアップもありました。
その中のあるイベントで私は彼女と知り合い、これらの話をしてくれたのです。
今回の女性だけではなく、多くの人が更年期前後の出血は不規則な生理による出血と考えがちです。
一般的には閉経の1~2年前より月経不順が現れ、月経周期が長くなる傾向があります。
日本人を対象とした研究では、20歳代で長くなり、45歳前後で一番短くなり(平均27.3日前後)、その後にまた長くなっていくというデータがあります。
Tatsumi T, et al:Obstet Gynecol.2020;136(4):666-74
子宮体がんや子宮頚がんであれば、不規則な出血が持続する可能性が高く、※1器質的疾患による不正性器出血か、月経による出血かを判断するためには、病院を受診し超音波検査、子宮体がん検査を行う必要があります。
しかしいきなり検査をする場合は少なく、まずは十分な問診が行われます。
※1器質的疾患:臓器や器官に認められる形態的・解剖的性質。
「不正性器出血があれば悪性疾患をまず疑って欲しい。そして必ず病院に行ってほしい」
これは先ほどの彼女が何度も私に話していたメッセージです
更年期世代の不正性器出血は、ホルモン補充療法を受けている場合もおこるため何かと見過ごしてしまいがちです。
更年期世代のがんについて
卵巣がん
40歳代から増加し始め、50~60歳代で発症のピークを迎えます。
下腹部のしこり、 圧迫感などの症状に気づいて受診する頃には、進行していることが少なくありません。
少しでも変調に気づいたときは婦人科を受診しましょう。早期発見には経膣超音波検査が有効です。
子宮体がん
50代に多くみられます。
子宮内膜ががん化し、子宮内に血液や膿、分泌物がたまっていきます。
閉経後に発症しやすく、初期には症状がないことが多いため、不正出血があっても閉経前の月経 不順と思い、見逃してしまうことがあります。
更年期世代の妊娠
年齢階級別の中絶選択率は、20歳未満が約6割、40~44歳が約2~3割、45~49歳が約5割というデータがあります。
これらより、全妊娠件数に対して中絶を選択している人の割合は、若者も40代後半もそれほど変わらないことがわかります。
40代で「産むことを選択する人」の割合が数年前より増えているにも関わらず、40代後半では約半数の人が中絶を選択しています。
40代後半になると「妊娠しないだろう」と避妊せずにセックスを行い、予定外の妊娠に対し「産むことを選択しない」人は少なからず存在します。
厚生労働省「令和元年度衛生行政報告例」母体保護法関係より
更年期出血、機能性出血とは?
更年期は女性ホルモンの減少に伴い、子宮内膜からの不正性器出血がおこりやすいと言われています。更年期の全ての出血を「更年期出血」と呼び、ホルモン環境のバランスの変化による※2機能性出血と分類されます。
この時期の機能性出血は、黄体機能不全による出血、月経周期の乱れに伴う月経前後の出血、無排卵によるエストロゲンの子宮内膜への持続刺激による子宮内膜増殖症による破綻出血などが考えられます。
※2機能性出血:はっきりとした病気や異常は見当たらないのに、子宮内膜が剥がれて出血してしまっている状態のこと。
また可能性は低いものの、妊娠による出血もあります。
不正性器出血は更年期女性だからこそ気をつけて欲しいと思います。
だからこそ婦人科検診の受診を疎かにせず、いつもと違うな?と感じたらすぐに医師に相談するようにしましょうね。
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