ハラスメントの根底にある「同意文化」の欠如。性的同意とコミュニケーションの取り方
こんにちは。リレーションシップコンサルタントの此花わかです。
現在、厚生労働省の統計によると、日本のハラスメント件数は82,797件で過去12年間増え続けており、被害者の半数近い45%が事件後に何もせず、やり過ごしているそう。(※)
ここには行政や組織のハラスメント対策の欠如とともに、世界がいま移行している「同意文化」への理解がまだ日本には浸透しておらず、人々が結果的にハラスメントを許してしまっていることが原因だと考えられます。
今回は、同意文化や性的同意、そして、性的同意のコミュニケーションについてお話したいと思います。
同意文化とはなにか?
同意文化とは、他者に同意を求めてどのような返答があっても、それを尊重するという行動を規範とする文化。
各個人が身体の自律性を持っていることを確認し、境界線(その人にとって快適なものを選択する権利)は無条件に尊重されるべきであるという考え。
境界線については過去記事『どこからどこまで妥協すればよいの? パートナーシップで必要な「3つの境界線」』を参考にしてください。
現在、多くの国では人権教育や包括的性教育に「境界線」の概念を盛り込み、絵本、映画や小説などの様々なメディアでも「境界線」と「同意文化」を意識的に取り入れています。
例えば、ディズニー映画『アナと雪の女王』ではクリストフがアナに「キスしてよい?」と性的同意を確認するシーンがあります。このようにハリウッドでは、#MeTooをきっかけに、プライベートゾーンや顔に触るときは必ず相手から同意をとる「同意文化」を子どもたちに教えるように意識するようになりました。
自分の境界線を把握することは、「同意」を自己主張するために必要不可欠。そして、同意には、”熱心で”肯定的で自発的な「YES」が必要ですが、「YES」と言ってもいつでもその「YES」を取り消すことができます。
同意を表現する機会は、特に性的交流の場面では絶対に与えられるべき。とりわけ、上下関係の厳しい日本のような縦社会では性的・非性的ハラスメントが起きやすいので、日常生活のあらゆる場面において同意文化を浸透させることが急務だと思います。
性的同意とは?
性的同意とは、どんな性行為でも、同意を得ること、そして与えることが絶対に必要なもの。性的なコミュニケーションは「自然の流れに任せること」という神話がありますが、相手がセックスをしたいのかどうかを知る唯一の方法は「相手が熱心に言語で同意する」ことです。
こういった”性的同意は毎回性的行為をする度に”行うべきですが、以下のようなシチュエーションでは特に注意しましょう。
・初めて性的関係を持つパートナー(プライベートゾーンや顔に触るとき、キスにも同意が必要です!)
・交際が始まったばかり
・セックスの初心者
・あなたや性的パートナーが、お互いの性的境界線を越えるかもしれないとき
・あなたまたはパートナーが、それぞれどのような性行為が好きなのか/どのような性行為が嫌いなのかを学び中の場合
・パートナー以外の誰かと性的関係を持ったことがある場合
・一緒に性行為をしてからしばらく時間が経っている場合
・自分が非言語的な合図を読み取るのが難しいことを知っている、または、少しでも性的同意に疑いがあるとき
・性暴力や虐待を受けたことがある人(トラウマがある人は明確に同意をするのが難しい場合もあるし、無意識に性自傷をしてしまう可能性もあるので、同意を得るために特別な配慮が必要)
性的同意はどのように言葉で聞くべきか?
・(具体的な性的行為を言葉にする~)をしてもよい?
・私は~をしたいけれど、あなたは~をしたい? したくない場合、何をしたい?
・~することについてどう思う?
・あなたがしたくないと思うことはある? それは何? 私は~をしたくない。
・私たちが~をするときに、安心してできるように何が必要だと思う? 安心するために何か必要なものはある?
・私は~をすることに興味があるけれど、あなたは本当に興味がある?
・いま、~をしたいんだけど、あなたは~したい? 今のタイミングはしてもいいかな? あなたのしたいタイミングはどんなときがベスト?
・今夜セックスしたいんだけど、いいかな? あなたは何をしてみたい? 試してみたい?
性的同意では“ない”ものとは?
・相手の「嫌」を認めない
・セクシーな装いをしている相手に性的同意があると思うこと
・いちゃつくこと、キスをすることが、それ以上のことを誘っていると思うこと
・性的同意年齢に達していない人
・学校や職場で自分より立場が弱く、「嫌だ」と言えないような立場の人を対象にすること
・薬物やアルコールを摂取しているため、性的同意能力を失っている人
・恐怖や脅迫を利用して性行為を強要すること
・過去に性的行為を行ったことがあるから性的同意があると思い込むこと。夫婦でも長年連れ添ったパートナーにも毎回性的同意をとらなくてはいけません
パートナーへの性的同意の断わり方とは?
カップルがどんなによい関係性を築いてきたとしても、パートナーの感情は簡単に傷つきます。NOを伝えることを学び、相手のNOを受け入れることはカップルを絆を深めるでしょう。
① パートナーがロマンティックなムードになる前に、言葉ではっきりと伝える
② なぜ性的行為をしたくないか正直に話す
③ 主語を「あなた」にせず、「私」にすることで自分自身の感情を伝え、パートナーは責められる気分がしません
④ 「私は~と思う」ではなく「私は~と感じる」と自分の気持ちを伝えることで、相手はあなたに分析されたと感じないでしょう
⑤ 次回、性的行為ができるときを伝える(※今後、その人と性的行為をしたくないときは期待を持たせてはいけません。パートナーと長期間や永続的に性的行為を持ちたくない場合は、きちんと話し合いましょう)
パートナーのモラハラや多産DVといった言葉が昨今よく報じられるようになりましたが、「同意文化」を徹底すれば様々なハラスメントが予防されると思います。
自分のNOを知り、相手のNOも尊重する。パートナーが熱心に積極性をもってYESと言わなければ、それは性的同意ではないし、YESと言った後もいつでも私たちはNOに心変わりができること、また相手のNOも必ず尊重することを実践していきましょう。
【参考】
※……データで見るハラスメント-厚生労働省