性行為のたびに涙を流す女性の話。〜更年期以降の性生活の悩みについて〜
〜更年期世代以降のセックスレスが増加。もしかしたらその原因は「痛み」や「心の変化」かもしれません。薬剤師の岡下さんが解説します〜
他の人は今も性行為を楽しんでいる?
「皆さんは、今も性行為を楽しんでいるのでしょうか?
私には苦行としか思えません。
行為の最中は、電気を消しているので夫にはばれていないと思いますが、痛くて苦痛で、涙をこらえ、”早く終わらないか……” とばかり考えています。
最近、夜がくるのが怖いとさえ思ってしまいます。
だからなるべく早めにベッドに行き、先に寝たふりをします。
こんな生活を続けていくうちに、夫と会話するのさえ億劫になってきてしまいました。」
ある日の更年期講座終了後に、私に話しかけてきた女性のお話です。
もしかすると、このような女性は、他にも多くおられるのかもしれません。
日本は他国と比較して、セックスの頻度が低いと言われているからです。
こちらのデータを見てください。
日本人のセックスの頻度と満足度
- 週1回以上の割合:34%(他国:25〜67%)
- 性生活満足度:15%(他国:53〜87%)
※Durex. (2005). 世界各国のセックスの頻度と性生活満足度. DOI: Durex 社調査より
実は私がここで気になるのは回数ではなく、満足度が低いという事実です。
先ほどの女性のように、性行為のたびに痛みがある女性が多いことが推測されるのです。
夫婦間のセックスレスは50代以降で急増
夫婦間のセックスレスについて、2000年と約10年後の2012年の調査結果があります。
こちらのデータをを見ても、満足度の低さがセックスレスに影響しているのではないかと考えられます。
2000年と2012年の、年代別セックスレスの割合
【2000年】
- 40代:30%
- 50代:41%
- 60代:55%
【2012年】
- 40代:54%
- 50代:75%
- 60代:80%
※荒木乳根子(2016): 日本性科学会セクシュアリティ研究会編, セックレス時代の中高年「性」白書より
なんとたった12年の間に、50代以降のセックスレスが急激に増加しています。
もちろんセックスレスは夫婦間の問題なので、理由は多岐に渡ることでしょう。
しかし女性だけに限ると、性生活を積極的に楽しめない理由として、性欲の低下や性欲の不一致が報告されています。
男性と女性に性欲の違いはあるのか
一般的に「男性は性行為そのものが欲求であることに対して、女性は愛されている実感を欲求する」、この意識の差が更年期のセックスレスに繋がるといわれています。
それに加え、多くの女性は更年期に、心身に何らかの症状がおこります。
その期間中に子供の成長・独立・夫が定年をむかえ、再び2人だけの生活に戻ると、空疎感が生まれることが多いことが指摘されています。
これらが知らず知らずのうちにたまってくると、夫婦の存在自体に疑問を感じる人が増えてくるのです。
ストレス社会、女性の社会進出の増加、定年まで働き続ける女性の増加……などのような社会状況の変化も、もしかすると更年期以降の女性の性欲に影響を及ぼしているのかもしれません。
もちろんお互い知り尽くしたからこそ、興味もなくなり、性欲がわかなくなってしまう、という理由もありますが。
更年期による体の変化もセックスレスの引き金に
体の変化も原因のひとつとなります。
特に性機能の変化が大きな理由となります。
※Masters, W.H. & Johnson 1996より
性行為に影響する更年期の女性の体の変化
- 膣の粘渇化の低下・拡張力の低下
- ホルモンの減少に伴い膣壁が萎縮して薄くなるため、ヒダがうすくなり、膣全体が萎縮する
- オーガズム期の短縮
- オーガズムの回数が少なくなる、筋緊張の低下
- 外性器の性反応の低下
- 脂肪組織の減退と弾力性の消失により、性的刺激をうけても痛みと感じる。
- バルトリン腺の分泌量の低下により、挿入時に痛みを感じる
このような変化は冒頭の女性同様、大変つらい状態です。
また痛みがあるため満足できないと感じる50代の女性は、38.6%いるといわれています。
※ジェクス株式会社調査(2017. 2.)
パートナーと男と女として向き合える女性は、満足度が高い
すべての女性が性行為を苦痛と感じているのでしょうか?
ここで興味深いデータがあります。
パートナーと純粋に男と女として向き合える女性は、満足度が高いという結果が出ているのです。
込み入った事情はデータから把握できませんが、性的欲求・満足度は身体的な理由よりも心理・環境依存が高いのかもしれません。
女性は心の癒しが欲しいのです。
夫婦の形は様々です。もちろん性行為だけがすべてではありません。
先述のアンケート結果では
「関心が他にあるので、毎日が充実している」
「性生活がない方がいい。気楽で自由だ」
という性行為がない方が良い、と感じておられる意見もあります。
更年期以降のパートナーとの関係は、互いに思いやり、少しでも構わないので会話をし、肩をもむなどちょっと触れ合う関係を保つことが大切なのではないでしょうか。
パートナーと離れて暮らしている、今はいない、片思い中、どんな状況でも「誰かに、何かに、心ときめかす」ことを意識していきたいものです。
豊かな性生活を迎えるために必要なこと
世の中にはたくさんのアイテムやメソッドが伝搬されています。
私には否定する権利がありません。
むしろそれらを活用することで、ご自身をいたわって頂きたいと思っています。
でも、それで健康をそこねてしまうようなことだけはしないで欲しいのです。
私がお伝えしたいのは、満足度の高い性生活をすごすために、心身の健康を大切にしてほしいということです。
人間は性的刺激をうけると、皮膚、筋肉、呼吸、脈拍、血圧、血液、体温、脳波、発汗、感覚、分泌腺など、全身で様々な変化をきたします。
また、女性はオーガズム時、脈拍は最大140~180/分(一般的な成人女性70~80/分)、血圧は平均80/50mmHg増加すると言われています。(Mastersら, 1966)
つまり、それだけ身体に負担がかかってしまいます。
このように、日々健康でいてこそ、満足度の高い性生活を得られるのです。
更年期以降も健康で、美しく過ごすために
日々を健康に過ごすためには、こちらのことを意識していただきたいと思います。
- 質の良い食事・適度な運動
- ストレスの少ない生活
- 病気の早期発見・早期治療
- 適切な婦人科受診
- 信頼できる健康情報・医療情報
- 心ときめく毎日
そしていつも同じ話になってしまいますが、ご自身の体の状態を日頃からチェックしておくことが大切です。
コロナ禍の自粛生活で外出しなくなり、運動不足や食べ過ぎ、ストレスなどによる肥満(メタボリックシンドローム)から、動脈硬化のリスクが高まっている人が増えてきています。
ストレスにより、ホルモンバランスを崩している方も増えています。
なんだか最近いつもと違うなと思ったら、生活を見直すチャンスです。
更年期以降も健康で、美しく過ごしていきたいものですね。