更年期は熱中症になりやすい?暑熱順化で対策!

年々、厳しさを増す日本の夏。「最近、ちょっとした暑さでもぐったりする」「すぐに疲れるし、のぼせやすい」と感じている40代・50代の女性は多いのではないでしょうか。
その夏の不調、実は更年期による体の変化が関係しているかもしれません。更年期は、女性ホルモンの影響で自律神経が乱れ、体温調節機能がうまく働かなくなります。これが夏の暑さと重なると、知らず知らずのうちに熱中症のリスクがぐんと高まってしまうのです。
この記事では、更年期はなぜ熱中症になりやすいのか、そして、本格的な夏が来る前に体を慣らす「暑熱順化」について、わかりやすく解説します。
夏の暑さに耐えられないのは年齢のせい?
51歳の絵美さん(仮名)は、営業職として日々外回りをこなすアクティブな毎日を送っています。多少の更年期症状はあるものの、仕事も家事も問題なくこなせており、自分では「まだまだ元気」と思っていたそうです。
ところが最近、炎天下の外回り中に急にふらつき、めまいや吐き気に襲われました。「あれ?これって熱中症?」と感じるような症状で、日陰に座り込んで水を飲みながら、しばらく動けなかったといいます。
「昔は真夏でも平気だったのに……体力が落ちたのかな」「やっぱり年齢のせいなのかも」
そんな思いがふとよぎり、少しショックを受けています。
熱中症の基礎知識
「熱中症」と聞くと、カンカン照りの太陽の下で倒れる——そんなイメージを持つ人が多いかもしれません。 しかし実際には、体の中の「水分・塩分バランス」や、「体温調節機能」がうまく働かなくなって起こる、さまざまな不調をまとめて「熱中症」といいます。
熱中症の症状は、重症度によって3つの段階に分けられます。
【軽度】その場での応急処置で対応できる段階
- めまい、立ちくらみ
- 顔のほてり
- 滝のように汗が出る
- 筋肉痛、足がつる(こむら返り)
【中等度】病院へ行く必要がある段階
- 頭痛
- 吐き気、嘔吐
- 体がぐったりする、力が入らない(倦怠感)
- 集中力や判断力の低下
【重度】救急搬送が必要な段階
- 意識がなくなる
- けいれんを起こす
- 呼びかけへの反応がおかしい
- 体に熱がこもって、異常に熱い
めまいやだるさなどの症状は、夏バテや更年期の不調とよく似ているため、「いつものこと」と油断してしまいがちです。しかし、熱中症が重症化すると、意識を失ったり命の危険を伴うこともあります。軽度の段階で見逃さないことが大切です。
そして、もう一つ気をつけたいのが「室内熱中症」。熱中症は炎天下の屋外だけで起こるわけではなく、風通しの悪い室内や、眠っている間の寝室で発症するケースも増えています。家にいるからと油断せず、気温と湿度が高い日は注意が必要です。
更年期は熱中症になりやすい|2つの理由
実は更年期には熱中症のリスクが高まると言われています。その理由には、更年期特有の体の変化が大きく関係しています。ここでは主に2つの理由について見ていきましょう。
1.自律神経の乱れ
更年期には、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が急激に減少します。エストロゲンは、体温調節をコントロールする自律神経と深い関わりがあるため、エストロゲンが減ると体温調節がうまくいかなくなります。
本来、私たちの体は自律神経の働きで、暑さを感じると自然に汗をかきます。汗が皮膚から蒸発する気化熱によって、体温が効率よく下がります。同時に、皮膚表面の血管を広げることで体の中の熱を外に逃がす仕組みも働いています。
この2つの体温調節機能はいずれも自律神経がコントロールしていますが、更年期になるとこのコントロールがうまくいかなくなり、
- 汗をかくタイミングがずれる
- 血管を開いて熱を逃がす反応が鈍くなる
といった「体温調節の誤作動」が起こりやすくなります。その結果、熱が体内にこもりやすくなり、熱中症のリスクが高まります。
更年期の代表的な症状であるホットフラッシュ(急なほてりやのぼせ、異常な発汗)も、まさにこの自律神経の乱れが原因です。こうした体温調節のコントロールが乱れている状態に、夏の厳しい暑さが重なることで、さらに体への負担が大きくなり、熱中症になりやすくなってしまうのです。
2.筋肉量の低下
筋肉は体を動かすだけでなく、体内の水分を蓄えるダムのような役割も担っています。私たちの体の60%は水分で、その一部は筋肉に蓄えられています。
しかし、40代以降は意識して運動をしない限り、筋肉量は年々減少していきます。筋肉量が減ると、体内に蓄えられる水分量が少なくなり、少し汗をかいただけでも水分不足(脱水状態)に陥りやすくなります。
また、筋肉には血液を全身に送り出すポンプの役割も果たしています。筋肉量が減ると血行が悪くなり、体の表面から熱をうまく逃がすことができず、熱がこもりやすくなります。
つまり、筋肉が減ることで「水分を蓄える力」も「熱を逃がす力」も弱くなってしまい、熱中症のリスクが高まってしまいます。
熱中症を防ぐ【暑熱順化トレーニング】
急に暑くなった日に体調を崩しやすいのは、体がまだ暑さに慣れていないためです。「暑熱順化(しょねつじゅんか)」とは、本格的な夏が訪れる前から意識的に汗をかく機会をつくり、体を徐々に暑さに順応させることを指します。しっかり汗をかける体になることで、体温調節機能が高まり、熱中症のリスクを減らせます。
暑熱順化は数日から2週間ほどで効果が現れるので、本格的な夏が来る前からスタートするのがおすすめです。
▼暑熱順化トレーニングの例
- ウォーキング
週に数回、1回30分を目安に歩きましょう。通勤時に一駅手前で降りて歩いたり、少し遠くのスーパーまで歩くなど、日常の中で無理なく取り入れやすい方法です。
- 軽いジョギングやサイクリング
週に数回、15〜30分が目安。心拍数が少し上がるくらいの運動が効果的です。
- 入浴習慣
シャワーだけで済ませず、湯船につかりましょう。38度くらいのぬるめのお湯に15~20分つかって、じんわり汗をかくのがポイント。リラックス効果も期待できます。
- ストレッチやヨガ
血行を促進し、自律神経のバランスを整える助けになります。
- 下半身を中心とした筋トレ
スクワットやつま先立ち運動など、下半身の大きな筋肉を鍛える運動を取り入れると良いでしょう。下半身の筋肉を増やすことで、体内に水分を蓄える力や、熱を逃がす力がアップし、熱中症予防につながります。
無理をせず、続けられる範囲で自分に合ったものを選びましょう。体調と相談しながら、心地よいと感じるペースで日々の生活に取り入れてみてください。
意外と知らない【正しい水分補給】
熱中症対策の基本は水分補給。意外と知らない「正しい水分補給の方法」について解説します。
- タイミングは「喉が渇く前」に「こまめに」
「喉が渇いた」と感じた時点で、体はすでに水分不足の状態です。そうなる前に、1時間にコップ1杯程度を目安に、意識的に水分を摂りましょう。朝起きたとき・通勤前後・入浴前後・就寝前など、タイミングを決めておくと習慣化しやすくなります。
- 飲み物の選び方
普段の水分補給は、水や麦茶で十分です。しかし、運動や屋外での作業でたくさん汗をかいたときは、塩分やミネラルも補う必要があります。スポーツドリンクや経口補水液、塩分タブレットなどを利用しましょう。
- 注意したい飲み物
アルコールやカフェインには利尿作用があり、水分を体外に排出してしまうことがあります。これらを飲む場合は、同量以上の水を一緒に飲むように心がけましょう。
- 飲み物の温度
冷たい飲み物を一気に飲むと胃腸に負担をかけ、内臓を冷やして夏バテを招く原因になります。特に更年期世代は、体の冷えは不調のもと。体に吸収されやすく、負担も少ない常温の飲み物を飲むのがおすすめです。
水分補給のポイントを意識することは、熱中症の予防だけでなく、夏バテ対策や、更年期特有の不調をやわらげる助けにもなります。
更年期は熱中症リスクUP!しっかり対策を
この記事では、ホルモンバランスの変化にともなう自律神経の乱れや、年齢とともに進む筋肉量の低下によって、更年期は熱中症になりやすいということをお伝えしました。
とはいえ、日常生活の中で「暑熱順化」や「正しい水分補給」を意識的に実践することで、リスクを防ぐことができます。暑い夏はどうしても体に負担がかかりやすくなりますが、早めの対策を取り、習慣化していくことが、熱中症の予防につながります。
今年の夏も、しっかりと体調管理をして元気に乗り切りましょう。
参考
熱中症ゼロへ「熱中症について学ぼう:暑熱順化」(最終アクセス日2025/07/11)
三宅康史「治療よりも予防が大切!熱中症の病態と救急医療」. 熱中症予防情報サイト(最終アクセス日2025/07/11)
厚生労働省 熱中症予防のための情報・資料サイト(最終アクセス日2025/07/11)