【薬剤師の体験談】頑張っているのにコレステロールが高くなる女性の話

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〜努力しているのにコレステロール値が下がらないどころか前回より上がっている…?もしかしたらその原因は「女性ホルモン」の影響かもしれません。薬剤師の岡下さんが解説します〜

みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中で、とくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。

目次

検査結果の用紙を片手に、怒りが止まらない女性

一体どうしたら 低くなるんですか

お薬が増量、変更になった患者様や、採血の結果が悪い、改善されないなどの理由で医師から「生活習慣を見直しましょう」と言われた患者様の定番フレーズです。

今回の女性は、コレステロール値が前回より高くなり、脂質代謝異常の薬が増量になったようです

 

「高校生の息子がいるので、私が食べるメニューだけ油を使わないように作っているし、スポーツジムに行って運動もしているし、お菓子も大好きなパンも控えているのにこれ以上どうしたらいいんですか?」

怒りから失望へと変わっていく様子です。

 

その女性はスタイルも良く、品の良い女性です。一方でかなりストイックな方で、薬局に来るたびご自身がいかにコレステロール値を減らす工夫をしているか、について話してくださいます。長年薬剤師をしていますが、ここまで取り組んでおられる方は稀なタイプです。

 

私は「まずは婦人科に行ってください。そこで血液検査をしてもらい、それからこの薬が必要か決めていきましょう」と提案しました。

すると、「何おかしなこと言ってるのですか?ふざけないでください。いくら素人の私だってどこの病院行っても採血の結果は同じことくらいわかっています。それとも先生は婦人科で採血したらコレステロール値が下がるとでもおっしゃるのでしょうか?」

これぞまさに火に油を注ぐ状態です。早く鎮火しないと大変です。

 

この患者さんだけではなく、「怒り」をぶつけてこられる方は、大抵強い不安を感じておられます。

 

年相応に下腹部はたっぷりしていますが、上半身は華奢に見えるお得な骨格の私が以下のように話始めました。

「実は私も40歳過ぎた頃から、採血結果でコレステロール値だけが急に高くなりました」 

「えっそうなんですか?どんなダイエットされたのですか?」

私は一息ついてから、彼女の地雷を踏まないように、言葉を選びつつ、ご説明しました。

 

 

コレステロール値と女性ホルモンの関係

コレステロール値は生活習慣病の指標の一つなので、生活習慣の乱れが原因の場合が多いのですが、女性はホルモンの影響で高くなることもあります。

 

高脂血症(以下、脂質異常症と呼びます)、冠動脈疾患や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の代表的な危険因子です。

「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」によると、食生活などの生活習慣の改善を含む非薬物療法を基本としつつ、薬物療法ではスタチン系薬を中心に、フィブラート系薬、エゼチミブ、プロブコール、多価不飽和脂肪酸、オメガ-3脂肪酸エチルなどが使用されると決められています。

 

よく患者様から「コレステロール値高いのがなぜいけないのか?痛くも痒くもないのに」と質問されますが、そのまま放置していると知らないうちに血管が傷つき、動脈硬化が進行し、脳や心臓の怖い疾患につながるおそれがあるのです。」と答えています。

 

動脈硬化とは

動脈の血管壁が厚くなったり、硬くなったりして血液の流れが悪くなる症状。主な原因の一つがLDLコレステロールが高い場合です。

中性脂肪が高い場合も血管に傷がつき、非常に高い状態が続くと、激痛を伴う急性膵炎を発症したり、糖尿病の合併もおこりやすくなります。主な原因はアルコールや脂肪、糖質の摂り過ぎなど。

 

日本人の血清脂質調査によると、男性の場合、LDLコレステロール値の推移に特徴的な変化は見られないのですが、女性の場合、50歳より前では、男性よりLDLコレステロール値が低いのに、50歳ごろより急激に上昇し、男性よりその値が高くなります。

 

また中性脂肪も同様に女性の場合40歳前では男性より値が低いが、40歳以降になると上昇し、その値は男性よりも高くなります。

 

つまり、閉経前後に脂質代謝に変化が起こり、その理由の一つにエストロゲンの低下が関連しています。

最近の研究ではエストロゲンには脂質代謝や血管機能の改善効果があると証明されています。

 

ここでようやく私が最初に話した「婦人科受診してください」につながるのです。

採血の結果や問診より、エストロゲンの低下を補うために、医師がホルモン補充療法を薦める可能性があります。

 

HRT(hormone replacement therapy=ホルモン補充療法)とは

HRTは更年期障害の治療です。

骨粗鬆症の予防に効果的と言われていますが、女性に特化した動脈硬化性疾患発症予防の為の治療法としてHRTが注目され、研究が進み、更年期の女性が生活習慣の改善とHRTを同時に行うことで改善される報告がありました。

※参照:「女性の動脈硬化性疾患発症予防のための管理指針2018年度版」診断と治療法 2018

 

日本の女性が罹る冠動脈疾患発症率は欧米と比較してかなり低いと言われています。

しかし食生活の欧米化、生活が便利になり運動不足になりがちな現代社会では、今後発症率が欧米並みになってくるのではないかとも言われています。

また女性は男性と比較して長生きであるため生涯動脈疾患発症リスクが高くなるため、若い頃無理していた方でも早めに生活習慣の見直しが必要です。

 

「いきなり婦人科を受診することに躊躇いがあるかと思いますが、ご年齢から察しても

婦人科検診も兼ねてかかりつけ医を探しておかれてはいかがでしょうか?きっと今までの努力が報われる時がくると思いますよ」

最後に私が先ほどの女性にお伝えした言葉です。

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この記事を書いた人

岡下真弓のアバター 岡下真弓 【薬剤師】

フリーランス薬剤師
JAAアロマコーディネーター協会認定講師

化粧品メーカー研究開発や薬剤師の知識を生かし、女性の健康と美容をテーマにした講演活動を行っています。 歳を重ねるにつれ、衰えや失われていくものはあります。また更年期世代は仕事で負う責任が大きくなり、後ろ向きな気持ちになりがちです。私は人の美しさとは、その人の生き方次第で変えることが出来ると多くの患者様から教わりました。

「歳を重ねる事をネガティブに捉えずセクシーに健康に楽しみましょう」

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