「更年期になって食欲が止まらない女性」原因は?|薬剤師の体験談

「閉経したら太る」と聞いたことがありませんか?また年を取るにつれて体重が自然に増えてきた、そんな経験がある方も多いはず。女性ホルモンと肥満について薬剤師の岡下さんが解説します。
「お腹いっぱいなのに食欲が止まらない」という50代女性
みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中で、とくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。
食欲が止まらないんです
お腹いっぱいなのに、気がつけば何かを口に入れていて……
薬局のカウンターでそう話す52歳の女性は、どこか困ったような、でも少しあきらめたような表情を浮かべていました。
年々ひどくなってきている気がします。体型もすっかり変わってしまいました
昔はこんなにスリムだったのにね
そう言って、スマートフォンの画面をスッと差し出してくれました。そこには、数年前に撮ったという笑顔の彼女が、今よりひと回り細身の体で写っていました。
更年期と重なる時期に訪れた、止まらない食欲と体型の変化。本人も「年のせいにしたくない」と言いつつ、どう向き合えばいいのか、模索の日々が続いているように見受けられました。
この女性に限らず若い頃より太ってしまうのは、50歳前後の女性によく見られる兆候です。また、よくみなさんから質問される「閉経したら太る?」という疑問。これは事実なのでしょうか?今回はホルモンと肥満の関係についてお話しましょう
「肥満」の定義と原因
まず「肥満」とはどのような状態をいうのか説明します。
肥満とは、体に過剰な脂肪が蓄積された状態を指します。医学的には、健康に悪影響を及ぼす可能性がある体脂肪の増加とされています。
一般的な定義として最も広く使われている指標は、BMI(ボディ・マス・インデックス) です。
BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m)²
日本肥満学会の基準では、BMI 25以上が「肥満」、BMI 22が最も病気にかかりにくい「標準体重」とされています。
肥満は原因によって2つに分けられます。
- 単純性肥満(原発性肥満):生活習慣を背景に、過食、運動不足、遺伝要素からくる肥満
- 二次性肥満(症状性肥満):特定の疾患が原因
肥満に繋がる代表的な生活習慣には以下のようなものがあります。
1.食生活
脂質、糖質の過剰摂取や低タンパク質の食事。早食い、ながら食いは満腹感を感じる前に食べすぎてしまい体重が増えてしまいがちです。リモートワークや忙しい人はながら食いになりがちです。どんなに忙しくても食事の時間を設けるように習慣づけたいですね。
2. 飲酒
アルコール自体が高カロリーであり、飲酒によって食欲が増し、脂っこいおつまみを食べ過ぎてしまうことが多いためです。また、肝臓がアルコールの分解を優先することで脂肪の代謝が後回しになり、内臓脂肪が蓄積しやすくなります。
3.ストレス
ストレスが食欲を高めるコルチゾールというホルモンを分泌させ、過食に繋がりやすくなります。ストレスによる不眠や睡眠不足から不健康な生活習慣にもつながり、脂肪が蓄積しやすくなります。
【更年期・閉経後】に太ってしまうのはなぜ?
更年期世代で、太る原因は様々です。
例えば基礎代謝の低下。以前と比較して、同じ運動をしてもカロリー消費量が低下し、ご自身の「痩せのセオリー」が通じなくなってしまいます。
なぜこのようなことがおこるのでしょうか?
女性ホルモン「エストロゲン」には筋力を保つ働きがあります。閉経前後の急激なエストロゲンの分泌低下に伴い、筋力も低下します。そして食欲に関しては、エストロゲンは食欲をコントロールする働きがあるのです。食欲が増すと食事摂取量も増えるため、必然的に太りやすくなってしまいます。
そして更年期の太りすぎは、骨や関節に影響を与えるため避けるべき。なぜならば、エストロゲンには骨量を維持する働きがありますが、閉経前後のエストロゲンの分泌低下により骨が脆くなるので、太りすぎることで腰痛や膝痛などの関節障害などのリスクをより高めてしまうのです。
生理前じゃないのに食欲がすごい理由
40代、50代の更年期世代で、生理前ではないのに食欲が抑えられないのは以下のような理由が考えられます。
1.エストロゲンの減少
エストロゲンには、食欲を抑える働きがあります。
エストロゲンは、脳の視床下部に存在する食欲中枢に作用し、食欲を増したり抑制したりします。閉経前後はエストロゲンの減少により食欲を増す働きがあるグレリンと呼ばれるホルモンの働きが増強し、食欲が増してしまいます。
2.セロトニンの低下
エストロゲンの減少により、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンも減少。気分が不安定になりやすく、食べることで気分を落ち着けようとする「ストレスによる過食」が起こりやすくなります。
3.自律神経の乱れ
女性ホルモンバランスの乱れは自律神経にも影響を与えます。これにより、満腹・空腹の感覚が乱れ、必要以上に食欲を感じてしまうことがあります。
4.睡眠の質の低下
更年期には眠りが浅くなったり中途覚醒が増えたりする人も多く、睡眠不足が食欲を増進させる原因になります。
40代・50代の肥満改善策
食事療法
1日の摂取カロリー(kcal)=25 × 標準体重
に設定します。ここでの標準体重は、以下の式で求めましょう。
標準体重(kg)= BMI22 × 身長(m) × 身長(m)
例)身長160cm(1.6m)の場合
標準体重= 22 × 1.6 × 1.6 = 56.3kg
摂取カロリー目安= 25 × 56.3 = 約1400kcal
現在の体重から3~6ヶ月間で3%以上の体重減少を目指しましょう。
運動療法
仕事・家事・通勤などの日常生活でできる範囲で、こまめに体を動かすことを意識しましょう。
行動療法
起床時、毎食後、寝る前に体重を測ったり、目標設定をしたりすることで、達成感を得てモチベーションを維持します。
ひと口30回噛む
食事の際にひと口につき最低30回しっかり噛んで食べるという食事法です。これにより、食べ過ぎを防ぎ、消化や満腹感を促進しやすくなります。
他に、専門的な治療として薬物療法や外科療法があります。
個人的には痩せているよりふくよかな女性の方が魅力的かと感じます。しかし肥満は放置しておくとメタボリックドミノを招きます。糖尿病、高血圧、脂質異常症などの病気を悪化させ血管を傷つけたり、もろくしたりして、やがて動脈硬化を引き起こしてしまいます。その結果、心筋梗塞や脳卒中、腎不全などの重大な病気の原因ともなってしまうのです。
適度な運動、食事を摂り常にベスト体重でいたいものですね。
「甘いものを食べすぎて低血糖!?」血糖値スパイクのリスク
さて、冒頭の女性ですが、美味しいスイーツや菓子パンが大好きで、SNSにアップするため話題のお店に行っては大量に購入していました。その代わりに食事の摂取量を減らしてカロリーコントロールしていたようですが、これが大きな落とし穴だったのです。
炭水化物を多く食べる人の場合、血糖値スパイク(※)によって食欲が止まらなくなっている可能性もあります。
※血糖値スパイク:急上昇した血糖値が「インスリン」の作用によって急降下する現象です。低血糖状態になるため、食べたばかりなのに空腹感を強く感じるようになります
「甘いものを食べすぎて低血糖になる」とお話すると、いつもみなさん驚かれるのですが、糖質(特に精製糖)を過剰に摂取する生活を続けていると、膵臓に多大な負担が掛かって、低血糖になることがあります。

更年期以降の健康のために《バランスの良い食事&ストレスケア》
偏った内容の食事を続けると、ビタミン・ミネラルが不足し、体の代謝が悪くなって低血糖を起こしやすくなると考えられています。また、アルコールで肝機能が悪くなると、肝臓から「ブドウ糖の放出」が行われなくなって、低血糖を引き起こすこともあります。
理想的な食事バランスは、
- 炭水化物:5~6割
- タンパク質:2~3割
- 脂質:2割
と言われています。毎食難しいかもしれませんが意識していると自然と身につくはず。
また、ストレスを発散させるために食べすぎる方もおられます。食べることは簡単で手っ取り早く満足感を得られるからです。思い当たる方はどうか食べる以外のストレス発散方法も、今から見つけてくださいね。