【薬剤師】岡下真弓
【薬剤師の体験談】は薬剤師である私、岡下真弓がこれまで患者さんと接してきた経験の中でとくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしているシリーズです。
今回は「更年期による不調には、婦人科を受診するのですか?」と聞く女性のお話。
更年期に関するあらゆる情報がネットで見られる現代においても、正しい情報が必要な人に十分に届いていないということを、改めて考えさせられたできごとでした。
話の中でご紹介する女性の悩みでもあり、女性によくある痛みのひとつでもある骨盤の痛みについても、後半に詳しくご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
それでは今回の薬剤師の体験談をご紹介しましょう。
「更年期って産婦人科に行くのですか?」その女性は驚いて私に問いかけてきました。
こんなに情報があふれ、テレビでも更年期が取り扱われる時代になったとはいえ、まだまだ一般的ではないのだなと、改めて感じた患者様との会話です。
少しふくよかな、疲れた様子が全身から伺える50代前半の女性が、整形外科の処方箋を持参されました。今回で3回目の受診です。
私が担当するのは今回が初めてだったので薬のカルテを見てみると、今回から鎮痛剤が変更になっていました。
そこで、「前のお薬で何か不都合なことがありましたか?それとも思うような効果を感じられませんでしたか?」
と、声をかけてみました。
その女性は全身が痛く、何をしても、どんな姿勢をとっても痛みがあると訴えました。
一般的な鎮痛剤に加え、さらに脳が痛みを感じにくくする薬や、痛みを感じる入口を封鎖する薬と外用薬が処方されています。
しかし一向に何も改善されないそうです。よって、3回目の今回も鎮痛剤が変更になりました。
小さな炎症は、時間が経つと消失し、痛みも改善します。
しかしなんらかの原因で、たとえ小さな炎症でも痛みが持続すると、脳の「痛い」と感じる感受性が変化し、痛みを感じやすくなります。
また本来ならば炎症のないはずの場所でも、痛くなってしまう人がいます。つまり痛いと感じる領域が広がっていくのです。
このような状態を「慢性疼痛症」と一般的には呼んでいます。
彼女の場合、脳の痛みの感受性を正常化する薬と、痛みの入力を低下させる薬が処方されていました。この治療法で80%以上改善しない場合は、他の鎮痛剤などを使用することがあります。
ですので私は、彼女の痛みは慢性疼痛症なのではないか、と漠然と考えていたのです。
しかし、それぞれの薬の処方日数を見てみると、痛みの入力を低下させる薬だけが、14日、他の薬は30日分となっていました。
薬が余っているからなのか、ご本人に確認してみると、
「月経の時に、骨盤がとても痛みます。だからこの日数で良いのです。」と言われます。
しかし月経が14日にわたることは稀です。そこで私は「月経が14日も続くのですか?」と私は尋ねてみました。
すると彼女は「ダラダラと続くのではなく、しっかりとした出血が14日も続きます。その間ずっと骨盤が痛みます。立っているのも辛いです。でも、更年期だから仕方ないでしょう?」と答えたのです。
はて、これは整形だけではなく、婦人科受診も必要ではないか?とあつかましくも介入してみました。
「婦人科受診されていますか?」と私。
すると、「更年期なのに婦人科ですか? 内科じゃだめですか?」と彼女が答えました。そう、これが冒頭のセリフとなります。
脳の痛みの感受性を変化させる大きな原因の一つに、性ホルモンのバランスの変化と加齢による身体のストレス耐性の変化があります。
さらに彼女が訴える骨盤の痛みは、婦人科疾患も原因として考えられます
骨盤痛は主にこちらの3つに分けることができます。
原因:筋肉・骨格系の疾患、臓器の阻血・攣縮・閉塞、骨盤内の液体貯留、骨盤内臓器の炎症、その他の疾患
予定月経開始日から10〜14日前に起こる中問期痛と、月経時あるいはその周辺時期に起こる月経困難症に分けられます。
中間期痛は排卵時の少量の出血や卵胞液の腹膜刺激による痛みで限定的、一過性のものです。基礎体温表と症状を合わせて2〜3周期をグラフ化することで診断できるので、気になる方はメモをとってから受診ください。
多くの方は生活に支障を来たし、治療を必要とするほどの痛みを感じます。
原因:子宮内膜症による癒着や炎症、骨盤内鬱血、予宮筋腫、卵巣腫瘍、性器脱、消化管由来、膀胱炎、筋肉・骨格・神経系由来、精神的問題、性的虐待、うつ病など
参照:女性心身医学 JJpSQcPsychosomObstetGyllec(平成24年3月)
婦人科で身体診察、検体検査、画像診断などが行われます。
生活背景やストレスといった心理社会的因子も原因となります。
この方に限らず、大きな病院には毎日多くの病名の付かない痛みを抱えた方が来られます。
医師から「気持ちの問題」として片づけられるのではないか、という不安をいつも抱えており、医療者に対して不躾な態度や、何も話したくないと頑なに心を閉ざしている方もおられます。
痛みは目に見えないため、本人にとってもどかしく、辛さが伝わらないためにそのようになってしまうのでしょう。
さらに女性の骨盤痛には、性的・身体的虐待などのPTSDの場合も考えらます。
だからこそ、薬局薬剤師は単純な「痛み」でも、患者さんが抱える真の痛みを感じ取り、専門外来への紹介も重要な役目なのです。
だからお節介も必要なのです(言い訳かしら?)。
さて、はじめにお話ししたその女性は、私が色々話している途中で、「マスクを外していいですか。息苦しくて」といって突然部屋の隅に行かれました。
そして肩で息をし始めたのです。あっという間に顔色が真っ青になり……明らかに貧血症状です。
私は最後に、このようにお声がけしました。
「まずは、帰りがけに婦人科を受診しましょう。
仮にあなたが恐れている疾患であっても、早期発見の可能性もあります。
今、貧血であることが、ただの痛みではないことが証明されましたよね。
一つずつ原因追求してみましょう。
最終的に残った治療法が、あなたにとって今必要なのですから。
私はいつでも待っています。」
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