【薬剤師の体験談】記憶力の低下に悩まされる、すべてにおいて完璧な女性の話
責任感が強く、仕事も完璧な女性が在宅ワークで見せた、いつもとは違う一面
新卒から化粧品会社のマーケティング部・広報など、華やかな部署に身を置き、歯に衣着せぬ発言で、周囲から注目されていた女性。
外部との交渉も上手で、上司からも一目置かれる存在です。
今春、新規事業開発部に異動になり、ほぼ毎日、在宅ワークで業務をこなしていました。
在宅ワークでのオンライン会議は、時としてその人の私生活が垣間見え、本人にとって不都合な時もあります。彼女もそんな一人です。
オンライン会議中、同居している親に呼び出され、離席する時の表情は、職場では見られない彼女の一面でした。
彼女は若い頃から負けず嫌いで、他人に弱みを見せず、何か問題があっても一人で解決してきました。
責任感も強く、仕事はいつも完璧だったのです。
誰にでも訪れる更年期。あなたは受け入れられる?
そんな彼女も52歳。
「最近なんだか、いつもと違う感覚はある」
「更年期かしら」
「いやいや、最近忙しいし、ただの寝不足に決まっている」と言い聞かせてきました。
仕事柄、女性雑誌をみる機会も多く、
「50代になると、更年期による体調変化に注意しましょう」
このような特集記事がいやでも目に入ってきます。
流行に敏感で、美意識の高い彼女にとって、それは面白くない、また興味のない内容でした。
「私は大丈夫だ」
なんでも乗り越えてきた自負からでしょうか、雑誌のインタビュー記事にまったく共観できないようでした。
突然の休職。うっかりミス連発の理由は……?
そんな彼女が新規事業開発部に異動して半年後に、突然休職を申し出ました。
誰もが休職理由は親の体調が芳しくないのだと思っていましたが、本当は彼女の体調不良による休職でした。
「なぜ?」
「あんなにいつも会議で元気に発言し、みんなを盛り上げて、引っ張ってくれていたのに」
みんなが不思議に思いながらも、よくよく考えたら、とある出来事以来、彼女は少しずつ様子が違ってきていたのです。
それは、新規事業を推進するために必要な資格があった時のことです。
彼女は率先してその資格取得テストを受けると宣言し、自主的に勉強もしていました。
ところがなんと彼女、うっかりして申し込みを忘れ、受験することができなかったのです。
すべてが完璧な彼女が、これまでそのようなミスをすることはありませんでした。
メンバーはみな彼女を攻めることもなく、「また次に受けよう」と軽く受け流していました。
しかしこれ以外にも、このような発言が徐々に増えてきたのです。
「その書類の提出を忘れていました」
「その話私は聞いていましたか? 離席していた時に話を進めないでください」
でもこのようなことは、誰しもがあるうっかりミスのいくつかに過ぎません。
メンバーも同世代が多いため誰も気にも留めない日常でした。
ところが彼女はうっかりミスが増えるだけではなく、苛立つことが増えてきたのです。
そして、このような状況であっても「介護で疲れているのだろう」と、メンバーは誰ひとり彼女の体調不良に気が付きませんでした。
更年期に見られる3つの一般的な症状
更年期に見られる一般的な症状は大きく3つに分けられます。
(更年期外来 メディカルビュー社 引用)
1・自律神経失調症
・血管運動神経症状:熱感、発汗、冷え性
・睡眠障害
・動悸、めまい、耳鳴り
2・精神症状
・抑うつ、精神不安定、意欲低下、不安感、記憶力減退
3・その他の症状
・運動器症状:肩こり、関節痛、腰痛、筋肉痛
・消化器症状:腹痛、食欲不振、悪心、嘔吐、下痢
・その他:易疲労感、皮膚症状、口渇感、性交痛、頻尿、尿失禁
このように、記憶力の減退も更年期症状の1つであるということが分かります。
物忘れも更年期の症状のひとつ?
更年期が理由で受診した女性のアンケート結果によると、気になる項目は以下のようになりました。
参照:日産婦関東連会報36:308(1999)「わが国の女性における更年期症状の特徴について」
- 「首や肩がこる」(81.8%)
- 「目が疲れる」(75%)
- 「物忘れが多い」(73.8%)
更年期の症状が強く現れる人ほど、物忘れを頻繫に感じる割合が高くなります。
またもの忘れの主な内容として、下記の内容があがっています。
- テレビに出てくる有名人の名前を忘れる(13.9%)
- 歴史上の人物の名前を忘れる(12.3%)
- 覚えるべきことが覚えられない(6.6%)
- 2階に上がったときや、どこかに移動した時に、何をしようと思っていたのか忘れる(5.4%)
参照:日本更年期医学会雑誌12:231-238。2004
これって認知症の始まり?
よく受けるのが「これって認知症の始まり?」という質問ですが、一般的に年とともに見られる物忘れは、「良性健忘」と「悪性健忘」に大別されます。
(PMID:14459267)
良性健忘
- 比較的重要でないことを忘れる
- 体験のところどころ(名前・場所・日付)を忘れるが、体験自体は覚えている
- ある時は忘れていても別の時は思い出せる
悪性健忘
- 記憶の保持時間が短くなる
- 最近の出来事が思い出せない
- 体験したこと自体を忘れる
更年期で体験するもの忘れの大部分は、認知症とは関係ない良性健忘です。
認知症とエストロゲン低下の関連性
認知症とは記憶障害や認知障害を症する、高次脳機能障害です。
脳血管障害やアルツハイマー病がその多くの原因を占めます。
65歳以上の認知症有病率は15%と推測され、その半数はアルツハイマー病と言われています。またその発生率は女性の方が男性に比べて3倍ほど高いと言われています。
これらより、最近閉経後のエストロゲン低下とアルツハイマー病との関連性について多くの研究がなされています。
以下にエストロゲンが脳機能でどのような働きがあるか示しておきます。
- 神経伝達物質
- 神経細胞の保護
- 神経栄養作用
- 脳機能の賦活化
- 脳内環境
参照:女性医学ガイドブック
うつ病の発生率は女性の方が男性よりも多い
うつ病の発生率も女性の方が男性に比べて多いと言われています。
厚生労働省の患者調査(平成29年)によると、男性のうつ病患者数は49.5万人、女性は78.1万人。男女別・年齢別にみると、男性は40代が最も多く、女性は40代および60代後半〜70代で多く見られます。
うつ病の主な症状は「憂うつ感」です。
以下に示した症状が2週間以上続くのであれば、一度専門医の受診をおすすめします。
- 抑うつ気分(憂うつ、気分が重い)
- 何をしても楽しくない、何にも興味がわかない
- 疲れているのに眠れない、一日中ねむい、いつもよりかなり早く目覚める
- イライラして、何かにせき立てられているようで落ち着かない
- 悪いことをしたように感じて自分を責める、自分には価値がないと感じる
- 思考力が落ちる
- 死にたくなる
(引用:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」)
また一般的に抑うつ状態の前に、下記のような体の不調を感じることがあります。
- 食欲がない
- 体がだるい
- 疲れやすい
- 性欲がない
- 頭痛や肩こり
- 動悸
- 胃の不快感
- 便秘がち
- めまい
- 口が渇く
(引用:厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」)
最近何か違うな?と感じたら
ライフスタイルに無理がないか?
ストレスがかかっていないか?
一度立ち止まる勇気を持ってください。
仕事ができる人ほど、無理をしがち
実は今回登場した女性は、私のかつての同僚の話です。私が勤める薬局に親の処方箋を持参したことがきっかけで久々に再会しました。
「うっかりして、親の病院受診日を忘れていた。インスリン注射が切れてしまうかもしれないどうしよう」
こう叫んで、彼女が閉店間際に薬局に飛び込んできた姿は今でも忘れられません。
若い頃の彼女の性格や仕事ぶりから推測すると、情報通で勉強熱心な彼女は「更年期」についてあらかじめ知っていたに違いありません。
しかし知っているだけでは、変えられない出来事があると改めて感じました。
仕事ができる人ほど、期待値に見合う努力をし、無理をし続けがちです。
今までできていたことが、突然前ぶれもなくできなくなる事実は受け入れがたいでしょう。
でも、いくら頑張っても、努力しても、できないことが生じるのです。それが更年期なのです。
どうか皆さんも、周囲で、頑張りやさんで、なんでもやってのけてきた人、明るくて周囲に気配りができる人、姉御肌で、頼りがいがある人が……こんな素敵な女性がいたら、このお話をシェアしてくださいね。