「私はもう閉経したの?そもそもタイミングがよくわからない」そんなあなたに聞いて欲しいことがあります。
「私は違う」と思いたい
「年齢的にそうなのでしょうけど、私は違うって思いたいのですよね……」心療内科の処方箋を持参した女性との会話です。
始めて薬局に来られたその女性に対して「このお薬は初めて服用されますか」とお伺いすると、彼女はこう答えました。
「最近とてもイライラするのです。その一方で、わけもなく悲しくなったりして、自分がよくわからなくなりました。そして、またそのことを考えだしたら眠れなくなって……。きっと私は心の病に違いない、そう思って今日受診しました。」
穏やかな表情で、はにかみながら話されていたため、一見するとイライラされているとは分かりません。
私は念のため、女性はホルモンバランスの乱れにより精神的に不安定になる場合もあること、寝つきが悪くなることをお話しさせていただきました。
すると続けて彼女は「私は違うって思いたい」と返答されたのです。
「まだ更年期ではない」と答える女性の心理状況
今回もこんな会話をしているので、私は普段薬局でなんでもかんでもすべて更年期症状であると判断しているのでは?と皆さんは思われるかもしれません。
しかし私は、患者様の様子を伺い、言葉を選び、その方とのやり取りから、お話しをさせて頂いております。
そして大概の方は「私は違うの」と話されるのです。
なぜそう答えるのでしょうか?それは女性ならではの心理状況が、影響していると思われます。
私なりの見解ですが、とあるアンケートでは「男性は年相応に見られたいと思っていますが、女性は実年齢より10歳ほど若く見られたいと思っている」という結果が出ています。
もちろん私も女性ですから、「いつまでも若く見られたい」という心理は理解できます。しかし、「更年期=老化現象=もう女性ではない」、このようなこ負のスパイラル方程式に当てはめてしまう方が多いのではないかと思うのです。
様々なところで更年期の定義についての記事がありますが、改めてお伝えすることにしましょう。
閉経の判定方法
一般的に、月経が永久に停止した状態を閉経といいます。しかし、それが何月何日?と尋ねられるとしっかり答えられる方は少ないでしょう。
よって医療現場では、12ヶ月以上の無月経を確認することで判定しています。
また様々な原因や子宮の摘出などの疾患により月経を判断できない方は、血液検査で判定しています。FSH(卵胞刺激ホルモン)値40mIU/mL 以上かつE2 (エストラジオール)値20pg/mL以下を示すなら閉経と診断されます。
日本人女性の平均閉経年齢は49.5±3.5歳と言われています。また日本では閉経前後の5年間、つまり約10年間を更年期と呼んでいます。
閉経の正確な仕組みはまだ明らかにされていませんが、卵巣の加齢性変化であると考えられています。
卵巣は加齢に伴い、皮膚の萎縮、卵巣数の減少、細胞機能の低下、血管の変化が生じます。30代では平均重量15gあったものが50代では5gにまで減少します。また原始卵細胞は37歳をすぎた頃から急速に減少し、50歳でほぼ消失すると報告されています。※1 PMID: 1291557 Faddy MJ、Gosden RG、Gougeon A、Richardson SJ、Nelson JF
40代からのホルモンバランスの乱れと閉経
40代くらいからホルモンバランスが乱れ、無排卵周期が増えてきます。卵胞期の延長を主体とする月経周期の延長が、この頃から見られます。
またこの症状は閉経前2~8年間続くとも言われています。卵胞刺激ホルモンに遅れて黄体化ホルモンの上昇が始まり、エストラジオールが低下し始め、閉経に至ります。
しかし、このバランスの変化パターンは様々で、予め閉経を予測することはできません。
近年AMH(アンチミューラリアンホルモン)を測ることで、閉経を予測することも試みられています。
心身症型の更年期症状
薬局で「ホットフラッシュがないから更年期ではない」と言われる方が時々おられます。
この年代の女性は老いの予感や自覚、子供の自立による役割の喪失、親の介護などの生活ストレスの変化が生じやすく、身体的にも心理的にも負担を感じ、ネガティブな感情が生じやすくなります。
更年期症状はホットフラッシュだけではなく、このような社会的要因も重なり、精神面の変化がみられることもあります。
また日本人女性は、閉経前後に緊張、神経質などの不安症状が増加しやすいと言われています。※2 PMID :16414325 Avis NE、Brockwell S、ColvinA
このように、ホルモンの低下により引き起こされる急性期の症状以外に、多様な心身の不調がおこりやすくなるのです。
具体的には気分の落ち込み、不安な気持ち、環境変化に対応できないなどと感じやすくなったり、動悸を感じる方もおられます。
一方で不定愁訴の多い女性すのべてが更年期症状である、と決めつけることは避けなければいけません。
医療現場では更年期に頻出する症状を起こしうる、糖尿病、高血圧を含むメタボリックシンドローム、甲状腺機能異常、貧血、服薬状況などを調べます。その結果を踏まえて専門医の診察やカウンセリングを受け、どの治療方法が良いのか患者様と一緒に決めていきます。
心身症型の更年期症状の治療方法
精神的な症状を訴える場合は、カウンセリング、精神安定剤、漢方薬、生活習慣の改善などがよく用いられます。これといった治療方法がないため、じっくり時間をかけて今の状況に応じた治療を用います。
また運動療法は、抑うつ気分の改善に有効的であると報告されています。※3 PMID :29150165 29150165
運動は更年期症状の改善だけではなく生活習慣病の予防、骨粗鬆症の予防のためになります。体を動かすのが苦手な方は、ヨガでも大丈夫です。呼吸を整えることで気持ちが落ち着きます。
余談ですが、私はアロマセラピーとヨガを日頃から取り入れています。皆さんの出来ることから、無理なく続けていくことをオススメします。
更年期は、風邪が長引いているようなもの
いかがでしたか?
先日40代の友人から「とにかく更年期が怖い。母も何も教えてくれないし。今から何かしておいた方がいいことってある?」と尋ねられ、私はこう答えました。
「更年期ってね、ちょっとした風邪が長引いているようなものなの。気がついたらやってきて、いつの間にか去っていくもの。この期間が過ぎてしまえば、楽園が待っているから。
でももし少しでも、気持ち的にも身体的にも辛かったら、無理しちゃだめ。せっかく身体が「無理しちゃダメ」ってメッセージを送ってくれているのだから、メッセージを受け取めないとね。走り続けてきた自分を振り返る期間。それが更年期だよ。
だから、今からしておくことは、毎日5分でよいので、ゆっくりと自分の身体と向き合う時間を持ってね。」
先行き不透明な毎日ですが、皆さんもご自身を大切にしておすごしくださいね。