【薬剤師の体験談】いつのまにか小指を骨折していた女性の話
更年期世代になるとエストロゲンと骨密度の関係は気になりますよね。では生活習慣病との関係はどうなのでしょうか。更年期世代の骨粗しょう症のリスクや原因、予防の方法を薬剤師の岡下さんが解説します。
みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中で、とくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。
気がついたら腫れていた足の小指。痛みの原因は?
「一番小さい湿布ください」
「これはいかがですか?」
「もっと小さいタイプが欲しいです。昔からある、肌色の湿布ですよ!」
「申し訳ございません。あいにく当店では、今こちらのサイズしかご用意できません。」
「足の小指に貼るから、こんなの大きすぎるじゃない!」
「ハサミで必要な大きさにカットされたら、小指にもご使用いただけます。ところで足の小指、どうされたのですか?」
「実はね、気が付いたら腫れていたのよ。初めは虫刺されかしらと思っていたら、どんどん腫れてくるし、歩くと痛いし、よく見ると内出血もしていて。どこかでぶつけちゃったのかしら?そういえば昨夜、トイレに行く時、ベッドの脚にぶつけたような気もするけど酔っ払っていたから覚えてないな。」
近隣の総合病院糖尿病内科の処方箋をいつも持参してくださる、50代の女性との会話です。
「まだこの時間ならば、整形外科の受付に間に合います!すぐに小指のレントゲンを撮った方がいいですよ。」
といつもの総合病院の整形を受診するよう、私は促しました。
「小指が痛いくらいで大袈裟だわ。待ち時間も面倒だし。ただの打撲よ。また次に糖尿のお薬をもらう時に、湿布もらうから、それまでに使用する湿布だけちょうだいよ。」
「歩くと痛いのは、もしかして骨折かも知れませんよ。」
私は少し声のトーンを落として、じっと彼女の目を見つめて話しかけました。するとその女性は、渋々と病院に向かいました。
ヨーグルトや小魚を毎日食べているのに、いつのまにか骨折
しばらくして、先ほどの女性が戻ってきて次のように話して下さいました。
「やっぱりあなたが言うように骨折していたわ。昔から骨は丈夫だったのにね。」
「ご存じかも知れませんが、女性は年齢と共に骨がもろくなりやすいのです。」と私が伝えると彼女は、
「骨に良いと言われるヨーグルトや小魚を毎日しっかり食べているわよ」
ときっぱり言い放ったのです。
「骨は常に生まれ変わっています。そしてエストロゲンは骨の新陳代謝のバランスを保つ働きがありますが、更年期などの影響で、エストロゲンの分泌が減ってくると、骨が作られるより、骨が壊されるスピードが上まわってしまい、骨密度が低下するのです。」
と私は伝えました。
「こんな状態ならば、当分動けないわね。仕方ないから家で唐揚げ食べて、ビール飲んでおくわ!」
と彼女は大笑いしましたが、私はさらに
「これを機に、食事の内容も改めてみませんか?今回の骨折は糖尿も関係しているかも知れませんしね。」
と付け足しました。
生活習慣病は骨粗しょう症の発症にも影響する
この女性は、お酒と甘いものが大好きで、毎晩、大量のお酒と、唐揚げなど脂っこいおかずと、チョコレートが欠かせないようです。
チョコレートを食べたいから、他のおかずを減らしてカロリーをコントロールしていると言うのですが、脂質・糖質が多いため、採血の結果から生活習慣病と診断されています。
生活習慣病は狭心症や脳卒中など、心血管病のリスクを回避するために注意すべき疾患ですが、骨粗鬆症の発症にも影響するのです。
骨は、鉄筋コンクリートの建物のような構造になっています。
これと同じように、骨の強さは、鉄筋のように支える働きをする「骨質」と、それを補強するコンクリートのような働きをする「骨密度」の2つで構成されます
一般的に糖尿病の方は、骨の構造を支える「骨質」の劣化が特徴的と言われています
インスリンを必要とする 2型糖尿病患者では 、そうでない方と同じ「骨密度」でも 骨折の発生率が高くなると言われています。(*1)
食事の見直しと、重力刺激を与える運動を
最後に私は彼女にこう話しました。
「今夜から夕食のメニューを見直しましょう。
骨には、小魚や牛乳などカルシウムが良いと思われがちですが、せっかく摂ったカルシウムの吸収を助ける、ビタミンDも忘れないで下さい。ビタミンDは野菜には含まれていない栄養素で、魚類やきのこ類に多く含まれています。とくに魚はカルシウムも多いので、骨の健康のために、おすすめです。
またきのこには食物繊維が多く、食事の最初に召し上がっていただくと、急激な血糖値の上昇を防ぐことができます!ぜひ今夜のお酒のアテに追加して下さいね。
そして、骨折が治ったら、運動を始めてみませんか?
運動と言っても軽いジャンプや、踵を上下に動かして、床にトントンとあててみるだけでも構わないのです。
重力の刺激が加わると、骨細胞が「骨を作れ」という指令を出し、骨は形成されます。このような理由から、ジャンプのような重力刺激を加える運動が効果的です。
また年々体の機能は落ちてきて、バランス力や反射神経、固有感覚、視力も衰えるので、転んだり、物にぶつかったりしやすくなります。
わざわざ着替えたり、出かけたりしないとできない運動は続かないです。
下半身や体幹の筋肉を鍛えていると、つまづくのを防いだり、転びにくくなります。
こうすることで骨折のリスクも回避できます。
ご自宅で気軽にできるものから始めてみましょう!
*1:Schwartz AV et al., JAMA 2011, 305, 2184-2192