【薬剤師の体験談】頑張り続ける女性の話
今まで普通にできていたことが突然できなくなる。頑張っているのに期待しているパフォーマンスが得られない。もしかすると原因は更年期特有の女性ホルモンの変化かもしれません。今回は薬剤師の岡下さんが、実際に出会った更年期女性のメンタルケアについてのお話をご紹介します。
みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中で、とくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。
見てはいけないものを偶然見てしまうというような瞬間、皆さんにもありますよね。
今回は、ある女性の人前では見せてはいない別の顔を見てしまった時、私がどのように接したかについてお話ししたいと思います。
いつも朗らかだった女性が、激しい剣幕でお姑さんを叱る理由
障害をお持ちのお子様がおられるその方は、いつも薬局で朗らかに話され、「こんなお母さんがいる家庭は笑顔が絶えず、みんな前向きな気持ちで暮らしておられるのだろうな」と、薬局内でも話題になるような、40代後半の女性です。
ある日、いつもの病院でも、薬でもない処方箋を持参されました。それにはお姑さんの認知症初期症状のお薬が記載されていたのです。
私がいつも通り、薬の説明や注意事項をお伝えすると、
「義母が外で待っているので」と彼女は急いで薬局を出て行かれました。
立ち去る時にふと見せた表情に、私は「同居されているのかな?大丈夫かな」と不安になりました。
その日を境に彼女はお子さんに加え、お姑さんの処方箋を持参されるようになりました。そしてある日、私の不安が的中していたことが分かったのです。
薬局では相変わらず笑顔で話しておられましたが、その最中に、お姑さんが薬局内に入ってきました。
すると、「お母さんなぜ? 待っててって言ったじゃない」
と女性は強い口調で言い、慌てて会計を済ませ、お姑さんと共に外に出て行かれました。
薬局の外で見た女性の表情は、今まで私たちに見せたことがないものでした。
ドアが閉まっていたので声は聞こえませんでしたが、激しい剣幕でお姑さんを叱っている様子が伺えました。
日を追うたびに、彼女の化粧や服装に変化が見られ、
「いつか、話かけよう」
そう決意した私はタイミングを見計らい、更年期女性をターゲットにしたエクオール*を話題にしたのです。
*エクオール:女性ホルモンに類似した、大豆イソフラボンを変換させるサプリ
女性は一生、ホルモンの影響を受け続けるけれど、気づかずに毎日過ごしがち
「今うちで一押しの商品です。女性って目に見えないけれど、一生ホルモンの影響を受けるのですよ。特に忙しい女性は変化に気づかないまま毎日過ごしがち。
ふとした時に、「あれ?これなんのために用意したのかしら?」とか、今まで普通にできていたことが突然できなくなって、自分を責めてしまうことがあります。
私もそう。だからいつのまにか『楽しい』と思える事が無くなってしまうのです。そんな時におすすめですよ」
とまるで商品のセールストークのように話してみました。
「ほんとそうですよね。一所懸命頑張っているのに、なぜか急に頑張れなくなる時があります。」
その後女性が、初めて自分の事を話してくださいました。
「もう疲れちゃったな……。」
同じ障害を持つお母様の会があり、お子様の病状についてや自分の不安な気持ちを相談するそうです。
ところが、ご自身のお子様が大きくなってきた今、相談される機会が増えてしまったそう。
「そうそう私もね、そんな時があったわ。」
と話すばかりで、いつしか自分の不安を吐き出す場所ではなくなってしまったそうです。
今までお世話になった会だからと、献身的にサポート役をかって出ていたのですが、それが辛くなってきたそうです。またそんな自分を責めがちでした。
さらに最近になって、お子様が小さい頃、全面サポートしてくださったお姑さんが認知症になり、日常生活のお世話をされているとお話してくれました。
更年期は、弱音や愚痴を聞いてもらう機会が減ってしまう世代
「お義母様のためにデイサービを探してみませんか。同じ年代の方と話すことで、お義母様もきっと喜ばれると思いますよ。」
と提案しました。
「私にはできません。」
この方だけでなく、他人に身内の世話を依頼することに対し、自責の念にかられる方がおられます。
しかしご自身の心身のバランスを崩してまで、ご家族のサポートをすることは誰も望まないでしょう。
更年期世代は職場でも地域でも、「お世話をする」「サポートをする」機会が増えます。と同時に、誰かに弱音や愚痴を聞いてもらう機会がぐんと減ってしまう世代でもあります。
頑張っている更年期症状の女性が希望するのは「心のケア」
ここで2013年に報告された、更年期女性に必要な心のケアについて、20年以上にわたって研究された結果をお伝えしましょう。※参照
更年期症状で婦人科受診をした女性は、お薬による『ホルモン補充療法』よりも、物事のとらえ方や行動に働きかけ、ストレスを軽減する心理療法の、『認知行動療法』を希望されます。
『認知行動療法』では、ホットフラッシュや萎縮性膣炎などの身体的な改善にはつながらないにもかかわらず、心のケアを希望される方が多いのです。
自分のために休む時間がないが、とにかく頑張り続ける。
しかし頑張れば頑張るほど効率が悪く、期待したパフォーマンスも得られない。
だからもっと頑張る。もっと心身が辛くなる。
このように、心の負担が増える行動パターンに、はまりがちです。
このパターンから抜け出すために多くの方は、俯瞰的に自分の状況を判断してもらえる病院を受診し、医師に話を聞いてもらい、理解してもらえるだけで満足するのです。
「精神科に行きなさい」とかかりつけ医に言われて落ち込んでいる患者様と出会います。
しかし、ここでみなさんにお伝えしたいのは、これは医師から見放されたのではなく、かかりつけ医と専門医と双方で、「あなたの心と体をサポートしますよ。」という素晴らしい提案であるということです。
私は最後に
「一人でなんでも抱え込んじゃいけませんよ。できていない事に気がつくってことは、今まで頑張っていた人にしかわからない気持ちです。このサプリメントはまた必要になった時にお声かけ下さい。」
と言って、エクオールを棚に戻しました。
※MATURITAS February 2014 Volume 77Issue 2p91-19