「トイレの回数が増えたのは、年齢のせいだから……」と諦めていた女性のお話
繰り返す膀胱炎。50代の女性がなった原因は?
抗生物質が記載された泌尿器科の処方箋を持参した、50代後半の女性。
その女性は月一回の頻度で、同じ内容の処方箋を持参されます。
膀胱留置カテーテルなど何かの処置後処方かと思っていましたが、お話を伺うと、繰り返す膀胱炎の為の処方とのこと。
一般的に立ち仕事や水仕事の方は、冷えが原因でよくかかられるため、「冷えにお気をつけくださいね。」と私はお伝えしました。
しかしその女性はこう答えます。
「排尿時に痛みがあって我慢していたら、膀胱炎になってしまったの。
それにトイレの回数も増えてしまって。外にでかけるのがおっくうでね。
以前はそんなことなかったのに……。
本当は以前通っていたテニススクールに行きたいし、ジムに行ってみんなと会いたいの。
でもね、いつもトイレのことばかり気になってね。だから外出するのが嫌になったの。」
婦人科は、若い妊婦さんだけが行くものではない
スポーツウエアを身にまとい、いかにも活動的な女性に見受けられますが、ここ数か月は家にじっとおられるようです。
かつてのように身体を動かしたくて仕方がないことは、その話しぶりから感じられました。
泌尿器科で検査を何度か行っていますが、特定できる疾患はないそうです。
そこで私は婦人科受診を勧めました。
するとその女性は「こんな年齢の女性が婦人科受診するなんて恥ずかしい。若い妊婦さんとかが行くのじゃないの?」とすかさず拒否されました。
そこで私は、私が対応した患者様では80代の女性も婦人科を受診されていること、婦人科は産科と異なり、更年期症状や生理痛など、女性ならではの症状により40代以降の女性も受診されていることなどをお伝えしました。
そして、お住まいに近い婦人科を何件かご紹介させていただいたのです。
この女性は様々な症状が重なっている状態なので一括りでは説明できませんが、膣の乾燥による灼熱感を感じ、排尿時に刺激を感じているのかもしれません。
もしくは、尿意切迫感による頻尿を繰り返しているのかもしれません。
あるいは、尿路感染症による膀胱炎を繰り返しているのかもしれません……。
GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)とは
閉経後の低エストロゲンによる萎縮性膣炎、外陰膣萎縮症、泌尿生殖器萎縮症、性交痛などは生活に支障をきたすこともあります。
それにもかかわらず、ためらって受診を控えている女性が多くいます。
そこで、このような女性達が医療機関で相談しやすいように、これらの症状を包括したGSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)(※1)という呼称が提唱されました。
比較的新しい用語のため、聞き慣れない人も多いかもしれません。
※1Portman DJ,GassbML Menoause21 PMID25160739
主な症状
GSMの主な症状はこちらです。
- 乾燥
- 搔痒感(かゆみやチクチクするなどの違和感)
- 灼熱感(ヒリヒリやチクチクなど焼けるような痛み)
- 性交痛
- おりものの異常(黄色・悪臭)
- 圧迫感
- 違和感
また、下記のような泌尿器科症状がみられることもあります。
- 排尿困難
- 血尿
- 頻尿
- 易尿路感染
- 失禁
萎縮性膣炎はなぜ起こる?
膣壁の上皮は、表層、中層、基底層の3層から成り立ち、グリコーゲン(※2)を貯蔵しています。
膣上皮は持続的に剝離し、同時にグリコーゲンが放出されます。
健康な膣はグリコーゲンを乳酸に代謝させ、㏗3.5~4.5に保ち、病原菌の発育を抑え、膣炎や尿路感染を予防しています。
更年期などの影響でエストロゲン量が低下すると、㏗が上昇し、膣内の細菌バランスが乱れ、糞便由来の細菌叢(さいきんそう)が増え、膣や尿路感染を招いてしまうのです。
※2 ブドウ糖が重なってできた、消化性多糖類のこと。肝臓と骨格筋で主に合成され、エネルギーの貯蔵物質として知られる。
泌尿生殖器症候群の管理
GSMの症状は、残念ながら慢性であることが多く、自然に消えることはめったにありません。
そのため、治療せずに放置すると悪化する可能性があります。
GSMは生命を脅かすものではありませんが、これらの症状は女性の生活の質や人間関係に影響を及ぼす可能性があります。
したがって、適切な治療法を見つけることが重要です。
また、閉経後の90%くらいの女性は何らかのGSMの症状を感じています。
しかし、恥ずかしい、年だから仕方ない、病院に行っても改善しない、などと認識されており、十分な治療を受けている方はまだまだ少ないのが現状です。
GSMの主な治療目標は、女性が症状を理解し、生活の質を向上させることです。
GSMの治療法
日本で行われる主な治療法は、下記の内容となっています。
- エストロゲン補充療法
- 抗菌薬膣坐剤
- 膣の保湿剤
- レーザー治療
- CO2フラクショナルレーザー(日本では保険適用外)
GSMにおすすめしないこと
GSMの症状がある時は、下記の内容に注意するように心がけましょう。
・泡風呂や香りのよい石鹸やローションなどを、膣周りに使用することは控えましょう
最近の研究で、外陰膣領域に間違った製品を使用すれば、細菌叢のバランスが崩れる可能性があることが発見されました
・喫煙は控えましょう
タバコの使用は、膣の萎縮と関連していると報告されています
・下着は通気性の良い綿などが良いでしょう
・定期的な運動を行い 健康的な食事を摂りましょう
・セルフケアを怠らず、精神的にも健康でいられるように、趣味などを持ちましょう
年齢のせいだと諦めたり我慢したりせずに、医療機関に相談を
冒頭の女性のように、多くの女性は今感じる症状は年齢のせいだからと、諦めてしまいがちです。
いつもとは違う何かを感じている場合、特にそれが不快であったり、継続的な痛みが続くなどは、生活の質の低下を招きます。
これぐらい我慢すれば、など思わずに、医療に携わる医師・看護師・助産師・保健師・そして薬剤師にご相談くださいね。
きっと改善のヒントに繋がります!