【薬剤師の体験談】手首の痛みは更年期症状と思い込んでいた女性の話
みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中で、とくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。
更年期女性の手首の痛みの原因は?
1ヶ月おきに整形外科の処方箋を持参する控えめな女性は、手首の痛みで受診しておられました。
かれこれ1年くらい、同じ鎮痛剤と胃薬の2種類の薬が処方されているのです。
その女性は50歳を過ぎていたので、「エストロゲンの低下に伴い、関節痛が生じることがある」旨を、服薬指導の際に私は伝えていました。
ある日、処方日数が2週間に変更になっていたので「何か症状に変化があったのですか」と尋ねると「血液検査をしたので、結果を聞く為いつもより短いのです」と話されました。
そして、2週間後に持参した処方箋にはいつもの薬とリウマチの薬が記載されていたのですが、私は心の中で「しまった!痛みの原因をエストロゲンの減少からの関節痛と思いこんでいた…」とつぶやきました。
彼女の手首の痛みの原因は、エストロゲンの減少が原因ではなく、リウマチによるものだったのです。
関節リウマチだけでなく、更年期の女性には関節の痛みを伴う病気が他にも多くあります。今回は代表的なものをいくつかお伝えします。
【更年期の関節痛1】エストロゲンの低下による更年期症状
まず更年期の関節痛の原因として挙げられるのはエストロゲンの低下です。
エストロゲンの低下によって、関節や腱の周りにある「滑膜(かつまく)」という組織の腫れや関節の炎症を招きます。
さらにエストロゲンの低下は神経を圧迫しやすくし、しびれが起こりやすくなります。
またリウマチと同じような朝のこわばり、手指の疼痛なども生じます。
エストロゲンの低下による関節痛の場合は、ホルモン補充療法やエストロゲンと似た働きをするサプリメント、漢方が効果的な場合があります。
【更年期の関節痛2】変形性関節症
変形性関節症、こちらも更年期によく見られる症状です。
変形性関節症では、朝のこわばりや、指先の感覚異常、手を握りにくくなる、バネ指、手の指、関節部の痛みを感じる等の症状がみられます。
圧痛・運動痛があり、関節の腫れはさほど見られませんが、指全体の腫れがみられ、指輪がはまりにくくなることもあります。
症状が出る手の場所によって、それぞれ名前がつけられています。
第1関節に出る:へバーデン結節
第2関節に出る:ブシャール結節
親指の付け根あたりに出る:母指CM関節症
いずれも軟骨がすり減るなどして痛みが生じ、進行すると物がつかみにくくなる場合もあります。
【更年期の関節痛3】腱鞘炎(ドケルバン病)
ドケルバン病は手首の親指側に痛みが起こる腱鞘炎のひとつです。
親指をひろげる、物をつかむなどの動作で、手首の親指側に痛みを感じる場合は、初期症状の可能性もあると言われています。長期間放置すると、痛みが肘まで広がり動きが制限されることもあります。
診断では、親指をそれ以外の4本指でギュッと握り、そのまま手首を小指側に強く曲げて、手首の親指側に痛みが出るかどうかチェックします。
手や指をよく使う人にみられ、更年期世代の女性は、家事などで手を日常的に酷使しているためにドケルバン病になりやすい傾向があります。最近ではスマホの使用によって引き起こされることもあるようです。
また、妊娠出産期や更年期にも起こりやすく、エストロゲンの変動も影響していると考えられています。
【更年期の関節痛4】関節リウマチ
関節リウマチは20~50代の女性に多く、更年期の症状かと思っていたら、今回の女性のように関節リウマチが関節痛の原因であったという可能性もあるため、注意が必要です。
関節リウマチとは、自己免疫の異常によって関節が炎症を起こし、腫れや激しい痛みを感じる病気です。重症化すると、軟骨や骨が壊れて関節が変形してしまうこともあります。
全身の関節で起こりますが、特に指や手首、足などに起こりやすいと言われています。
症状でよくみられるのが朝のこわばりです。朝から家事をこなす機会が多い女性にとって、起きてすぐに関節が動かない症状は生活に支障をきたします。
症状の進み方
①初期症状:関節の炎症に伴うこわばり、腫れと痛み、発熱など
②進行すると:関節の軟骨や骨が破壊され、関節の脱臼や変形などが生じる
③関節破壊が進んでくると:日常生活や家事、仕事に支障が出て介助が必要になるなど、生活をする上での機能障害が進行
病院での診断
一般的には以下のようなことを確認して診断されます。
- 関節の腫れの確認
- レントゲン
- 採血
- 関節エコー
原因
自己免疫の異常が起こる原因はよくわかっていません。出産後・閉経前後の方などが発症しやすいため、女性ホルモンの影響もあるのではないかと最近注目されています。
その他、体質、ウイルス感染や喫煙などが発症の引き金になると考えられています。
何でも「更年期のせい」と思いこまない!
私は医師ではないので、目の前で困っておられる患者様の症状から、診断名をお伝えすることはできません。
だからこそ、患者様がいつも困っていることを医師の前で伝える時に、わかりやすく、効率良く伝えられるようにお手伝いをしているつもりでした。
しかし今回は、私も患者さんも手首の痛みは「更年期のせいだから」と思いこみ、医師に症状を十分に伝えず、継続的に受診していました。
細かい違和感や手首以外の症状について伝えていたら、もう少し早く関節リウマチの可能性にたどり着けたのかもしれません。
更年期?リウマチ?関節の痛みを感じたら何科を受診?
関節の痛みを感じたら、まずは整形外科を受診するのが一般的です。整形外科的な異常はないと言われた場合は、更年期のエストロゲンの低下が関係している可能性があるため婦人科で相談してみるという流れがよいでしょう。
さて、その後その女性はどうなったのでしょうか。 「痛みはどうですか?」 「あまり変わらないので、鎮痛剤は欠かせないですね」 指の関節の痛みよりも体のあちこちが痛むらしいのです。 もはやこの方が訴えている痛みはいったいどこが発生源であるのか……そう思いながら 「お大事に。体冷やさないようにしてくださいね」 と声をかけました