【薬剤師の体験談】原因不明の腰痛に悩まされる女性の話
みなさんこんにちは。薬剤師の岡下真弓です。
【薬剤師の体験談】シリーズは私がこれまで患者さんと接してきた経験の中でとくに印象的だった方のエピソードをご紹介し、その体験から得た学びやメッセージをみなさんにお届けしている連載です。
今回は「腰が痛い」と言って何度も薬局に来られる女性の話。腰痛は多くの人が悩まされる症状ですが、この女性の場合はどうやら「腰」だけが原因ではなかったようです。
それではさっそく今回の体験談をご紹介していきましょう。
最近よく見かける、腰の痛みで何度も薬局に来店する50代の女性
「また来られました。いつもの方が……」
「今度は先生が対応してくださいよ。もう私はお手上げです」
そういえば最近よく見かける50代の女性。初めて薬局に入って来られた時は「腰が痛い」と言って鎮痛剤と湿布を購入されました。
サンプルで漢方薬をお渡しした数日後に「あの漢方薬が欲しい」と言って7日分購入してくださった方です。
私が勤務している薬局は、地域に根ざした店舗を目指し、処方箋薬だけでなく漢方薬や健康食品も多く扱っており、体調不良を抱えた方が頻繁に来られます。
また薬剤師以外にも登録販売者も数名常駐しており、漢方薬や湿布は彼女たちが対応しています。
数日後、「痛くて辛いです。今度は別の薬をください」と言って、登録販売者とおよそ1時間にわたって会話をし、その後も頻繁に来られては、その都度違った漢方薬を購入しています。
ある日その女性が憔悴しきった様子で薬局に入って来られました。
「痛くて何もできない」
「もっとよく効くものが欲しい」
と懇願してきたため、途方に暮れた担当者から、私にバトンが渡されたのです。
本当に腰が痛いだけ? 腰痛の奥にひそんだ理由
「はて? この方は本当に腰が痛いのだろうか?」
そう思いながら彼女の前にゆっくりと腰掛け、いくつか彼女に質問をしました。
話を伺っているうちに、どうやら一番の訴えは腰の痛みではないようです。
とにかく身体のあちこちが痛く感じ、何もやる気がおこらない。
あちこち主訴が変化するその女性の原因は?
毎月私の記事を読んでくださっている読者様なら「ほらまたあのセリフでしょ」と、思われたかもしれませんね。
はい、期待を裏切らず、いつものように女性ホルモンと体の変化についてお話ししました。
腰痛について
少し古いデータですが、国民衛生の動向(厚生労働省2012)によると、日本人女性の中で肩こりに次いで多い主訴が腰痛です。また通院患者率も高血圧・目の病気・歯科疾患に次いで多い症状です。
しかしそのほとんどが、原因が特定できない非特異的腰痛です。
腰痛は重いものを持ち上げたり、無理な姿勢による腰の負荷が主な原因です。さらに運動不足でも生じます。また心理的ストレスにより痛みが生じる場合もあります。
さて先ほどの女性の話に戻りますが、家族のことで悩みがあり、睡眠不足で、全身がだるくて、力も入らず、ご自身の中では「せめて腰の痛みさえ解決できれば、今より少しは楽に暮らせるのではないか」と判断し、「腰の痛み」を訴えていたようです。
この女性のように、慢性的に広範囲に痛みを訴える方のうち、精神の状態が安定しない時に痛みが現れがちで、慢性腰痛患者の25%を占め、女性に多いと言われています。
参照:BMC Musculoskelet Disord 2013
詳細は不明ですが、自律神経のバランスが乱れて血液循環が悪くなることや、腰周りの筋肉が加齢によって衰えることが原因ではないかと言われています。
さらに、更年期世代の女性の腰痛で注意すべきことは、骨粗鬆症や椎間板ヘルニアによる痛みです。
エストロゲンの分泌低下に伴う更年期症状は、ホットフラッシュやイライラ、不眠などが挙げられますが、骨量の低下は閉経前から始まっており、閉経直後の2年間で約3%弱、閉経後の10年間で15%低下します。
また骨量の低下は骨粗鬆症に繋がります。70代の女性の2人に1人は骨粗鬆症と診断され、その患者数は男性の約3倍で、女性が注意すべき疾患の一つです。
骨のために、今からできること
骨量は年齢と共に低下します。しかし工夫次第で減少率を和らげることができます。
食事
カルシウムやビタミンDなどが豊富なメニューを意識しましょう。マグネシウムやビタミンK、タンパク質もプラスされれば、さらに良いでしょう。
軽度な運動
骨に刺激が加わり、骨を強くします。ただし無理せず長続きする運動を。
日光浴
紫外線を適度に浴びると体内でビタミンDが作られ、骨の強化につながります。紫外線対策は忘れずに!
禁煙
喫煙は血流を悪くしますので、禁煙をおすすめします。
将来のために、今から健康貯金を
先ほどの女性は、整形外科でレントゲンを撮り骨折のリスクはないようです。
献身的な性格のため、体が思うように動かない自分に不甲斐なさを感じ、それがストレスになっているのではないかと察しました。
程度の差はあれ、更年期は誰にでも起こること、また症状は心身共に、しかも多方面にわたって現れることをお話しました。
長く生きていると、自分の力だけでは解決できないことが増えてきます。
「せめて痛みからは解放されたい」その気持ちはわかります。
しかし原因不明の痛みを取り除くために、今彼女に必要なものは、医薬品ではなく、心の負担を軽減すること。
「将来の自分のために、今からできる健康貯金をはじめましょう」
これが最後にかけた言葉です。